はいはい、あの子は特別な喪女です
「サクリエル様、ここの新たな領主になってください!」
「丁重にお断りするでござる」
お断りのポーズでビシッとキメるサクリエル。何もカッコよくはない。
まあ、我としてもキモ引きこもりヲタのサクリエルに領主を任せるのはいささか不安だし。「キモヲタのイヤなサンドイッチはやめてくだされ」
きっとキモオタ喪女であるこやつのことだ、ここをあのだらけきった聖都みたいにしつつ、BLの園にしかねない。そんな地獄みたいな花の都なぞ絶対に作らせてはならぬ。ここは変態紳士がメインターゲットだ、ホモは帰ってくれないか!
ここはやはりファジムこそが適任だと思っているのだが、肝心のヤツがおらぬ。
「小生が領主になるかどうかは遥か彼方に置いといて、」
いや、もしかしたらマジでこやつが領主になる可能性も拭いきれぬ。こやつは十分に自身の実力を領内に知らしめた。ここにいる荒くれ者どもは、すでにサクリエルをこの領地を治めるにふさわしい強者だと認めているのだ。
ま、だらけないように24時間体制での監視は必要ではあるだろうが。今回のこやつの活躍も鑑みつつ、そのあたりの処遇も考えていこう。
そして、そのためには、やはり、ファジムのことを無視するわけにはいかぬのだ。
「ひとまず、ファジム氏がどこにいるか教えてはござらぬか」
早速優勝者の特権を行使する。というか、決勝戦でのあんな圧倒的な力を見せつけられれば、たとえこの大会に参加していなくとも相手は素直になってくれるだろう。なぜ最初から本気を出さなかったのだ、こやつは。
結局ファジムは大会には現れず。
行方知らずの酔いどれ知らず、気の向くままに放浪しているのだろうか。あやつらしいと言えばあやつらしいが。
つまりだ、このトーナメントはファジムとは無関係、つまり、あやつのまかり知らぬところで行われているということか。
統治者も民主主義もなくなると、こんな無法地帯になってしまうのだな。我、学びを得た。
「あの腑抜けはどっかに行っちまったよ。どっかで人間に騙されてランプにでも閉じ込められてるんじゃねえか」
「何もしない領主なんてここには要らないよ。わたしは今日を生きるのに精いっぱいなのにアイツは何もしてくれないのさ」
「ニンゲン、クウ。オレ、アイツヨリ、ツヨイ」
どこの誰に聞いてみても、ファジムの評価は概ねこんな感じだった。そう、魔物も、人間すらも、だ。最後のやつは……何?
しかし……
一体どうなっているのだ。
ファジムは、自由奔放ではあったが、領地の民にこんなにもボロクソに言われるほどには無責任ではなかったはずだ。だからこそあやつを領主にしたのだ。
「それにしても、ファジム氏はどこに行っちゃったんでござろうか」
「これは何かあるな」
領主不在の世紀末状態では、この領地を神に奪還、あるいは他のならず者に奪われかねない。というより、半分そんな状態だ。
そして。
謎はもう一つある。
このバカげたトーナメント大会を開催した者は一体何者なのか。こちらについても主催者を知っている者はいなかった。
これはおかしい。
あんな大規模な大会を、一切の素性も明かさずに開催することなぞ可能なのか。それに、優勝者に与えられる、どんな願いも叶えられるという特権も、何か大きな力が働かなければ賞品としては提示不可能なのだ。そして、それを信じさせることもできるような、何か。
こちらも調べる必要があるかもしれない。もしかしたら、ファジムが何か関係しているかもしれぬしな。
ファジムの不在。
主催者の正体。
お、何か大きな陰謀めいたものを感じざるをえないなあ。うひひ、これは壮大な伏線になりそうだなあ。
「とりあえず、貴様が臨時の領主な」
「ふぁッ!?」
「安心しろ、魔界のマッドサイエンティストどもを何人かここに呼んでおく。貴様はここをいい感じに治めながら最強最悪の魔法の開発に励んでくれ」
「労働の喜び!」
サクリエルはそう叫び、泡を吹きながら、死んだ。
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