あなたはダンジョンを探索する

「貴様らはしばらくここで反省していろ。もちろんイチャイチャは禁止だ!」


「ふえぇ~、ごめんなさ~い、ヘラ様~」


「こ、これはこれで……」


「クソ、ドMは無敵か?」


 オフィーリアは下着姿のままベルトで縛り上げてよくわからんエロい拘束具に吊るし、グロリアは瓶詰めにしたのだが……あとで密閉して冷凍庫にでもぶち込んでおくか。


 ステラの姿を映していた魔導ホログラムはいつの間にか消えてしまっていた。いつかステラとはちゃんと話し合わなくてはならぬな。親子関係は色々と難しい題材だ、こんな感じでこじれると親子喧嘩編とかいうわけわからん新章に突入してしまう。カマキリと格闘する前に早急に仲直りしなければ。


 さてと。


 いつの間にやら解錠されていたエロトラップから出ると、ふうっと安堵の吐息。今回もなんとかR18は防いだな、ヨシ!


「しかし、なんともまあ、実に古きよきダンジョンという感じだな……」


 改めて様子を見てみると、一寸先も見えないような暗闇の中に辛うじて松明だけが弱々しい光を放っているだけ。周囲の様子を窺おうにもこれでは古ぼけた石壁しか確認できぬ。人気もないのになぜか燃え続けているこの松明も実に怪しい。


「まあ、ここで何もしない選択肢なんてないのだがな」


 我は壁の松明をひとつ手に取ると適当に進むことにした。何か目印になりそうな物も特になく、ついでにあてもないが、入り口から反対に進めばよかろうなのだ。


 ダンジョン攻略モノのセオリーは、役職の違う少数精鋭のパーティ編成だ。ここに如何にして個性的なメンバーを編成するか、というのが筆者の技量が試されるというものだ。今の我がジョブは魔法使いかな。いや、ノージョブかもな。


 黒ギャルサキュバスのオフィーリアと、クールメガネっ娘スライム、グロリアの組み合わせは、まあダンジョン物でも十分魅力的ではあるだろう。どちらかというと、エロトラップに仕掛けられていそうな卑猥なモンスターだからな。


 そもそも、魔物がダンジョン攻略する、という絵ヅラがいい感じに映えるはずだ。しかしながら、ここであやつらを簡単に許しちゃうとまたつけ上がるかもしれぬからな、ここはぷりっと心を鬼にしよう、我は魔王だけどな。


 一人で進むにはいささか不安があるが、ソロ、という場合もある。そういうお話も確かにあるにはあるが。


 しかし、懸念がひとつだけある。


 どうする、このままでは会話もなく静々と進むことになってしまう。今まさに会話がなくて文章がみっちり詰まってきてしまっている。引退魔王のひとりごとを延々とやってるのも正直しんどい。 


 せっかくのダンジョンソロプレイなのにナレーションベースでさくっと終わってしまうのも寂しいし、配信者的なネタは廃城塞、ハドゴアでもうやってしまった。あのノリの何が楽しいのかさっぱりだ。


 さすがにダンジョン配信系小説でもないのにまた配信ネタを擦るのはちょっとマンネリ感も否めない。我、配信者じゃないし。あと、単純に我がダンジョン配信系そんなに好きじゃない。


 というわけで潔く普通にダンジョンを探索するとしよう。


 このダンジョンはおそらく地下へと潜っていくタイプのやつだ。


 なぜならば、砂漠にあるこのダンジョンにはそびえ立つ塔のような建造物はなく、ただ薄暗い洞窟の入り口だけが砂に埋もれかけていたからだ。だから、我は、地下への階段やどこかの部屋へとつながる扉を探さねばならぬ。


「しかし、進むたびに形が変わっているような気がするな」


 振り返ると、さっきまでの道とは何かが違うような気がする。それでは引き返そうにも引き返せない。そして、また振り返ると道が変わっている。これでは、並の冒険者では道に迷って、いずれこの無明の闇に発狂するか、力尽き、朽ちて死んでしまうだろう。


 だが、問題はない。


 そもそも不老不死である我には時間が無限にあるからな、飢え死にもしなければ、体力や魔力が尽きることもない。もちろん先代魔王である我が、そんじょそこらの魔物に殺されることもあり得ない。


 いざとなれば、このダンジョンごと周囲一帯を破壊してもいいしな。 


「それじゃ、ずいぶんと暇を持て余しているダンジョンマスターに付き合ってやるか」


 ダンジョンマスター、サクリエルが一体どのようなトラップや魔物を配置しているか、これも査察してあげようではないか。どんな状況でも査察のことを忘れない、さすが我、主人公にふさわしすぎるな。


「おーい、そろそろ魔物を出してもいいんだぞー」


 暗闇に向かって叫んでみるが、返ってくるのは我が声の反響ばかりで寂しい。


 ダンジョンに住まう魔物共は我が抑えきれんばかりのオーラに怖気づいているのかまだ現れない。階層もまだ最初だし、魔物のレベルもまだ低いのだろう。これで戦闘があればそれはそれで美味しいのだが。ビビってないで我が慎ましやかな胸を借りるつもりでどーんッと挑んできてほしいものだ。


 どうしたものかと考えながらとぼとぼと暗いダンジョンを歩いていると。


「……お?」


 こんなところにちょうど良さげな白骨死体があるではないか。魔物すらまだ出てきてないのに。


「なんとまあ、ご都合主義な」


 とは言いつつも、ようやく話し相手に出会えた喜びに、思わず口元はにやりとしてしまうのだが。

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