もしかして:寄り道
ダンジョン&ヒロインズ
「ーーお、おい! ステラ! なんだ、ここは!」
何もない天井に向かって叫ぶが、何も反応がない。
次の査察はステラの依頼で、辺境にある砂漠のど真ん中にある古代の邪神殿、ウルガンノスを守護するエンシェントデーモン、サクリエルの様子を窺ってくる、ということだったはずなのに。
ここは火炎獣領に向かう途中にある砂漠地帯で、いずれは魔族の物になる。が、歯がゆいことに今はまだ神のものだ。
ここは幸いにも道中ではあるし、それに、大切な娘の依頼とあっては断る理由もない。聖都での神魔大戦の戦勝祝いに貴重なアイテムでも持って帰ってやるか、と思っていたのに。
先行させていたグロリアが安全だと言っていた部屋に入ると、そこには。
意味深に大きなベッドとその脇のなんか怪しげな引き出しだけ、中身は見たくない。それ以外には何もない。
そして、嫌な予感に急いで部屋を出ようとするが、ガシャンと大きな音を立てて扉にロックが掛かる。押しても引いてもびくともしない。美少女である今の我では力づくでさえ開けられやしないだろう。
やたらと重厚な入り口の扉以外は、密室。そう、これは完全にトラップだ。やられた。
「こんなアホみたいなトラップに引っかかるとは、不覚……ん?」
ふと扉を見上げると、そこにはたしかにこう書かれていた。
『親近度MAXいちゃラブねっとりセッ○スしないと出られない部屋』
え、ナニコレ!
珍百景かな? こんなの薄い本でしか見たことないけど?
「あれれ~? おかしくないっすか、ヘラ様~? ここにいるのはアタシ達だけっすねぇ~?」
「冷静に考えましょう、親近度MAXいちゃラブねっとりセ○クスするしかありません」
「おぬしらが一番おおお落ち着け、まだあああわあわ慌てる時間じゃあわあわああ」
「ヘラ様、めちゃくちゃ慌ててるじゃないすか」
こんなん絶対にR18ですやん! こやつら、もうヤる気満々で完全に目がとろんとしててそういうテンションになってる。息遣いも媚薬でも使ったのかってくらいに荒くなってるし。ずりずりにじり寄ってくるのやめて。
ねえ、だって我らそんなんじゃないから! ステラ! ステラー!
『お父様はワタシの気持ちなんてわからないのですわ』
すると突然何もなかった部屋の壁に魔鏡映像、いわゆるホログラムが浮かび上がる。そこに映し出されていたのは。
真っ黒な背景に佇み、目元を隠すようにマスクを着け、何故か声を魔力変換で低くしている……
「ステラ、これはどういうことだ?」
『ちょ、なんで、そんなすぐに、げふんげふん、……い、いいえ、ワタシはステラではありません』
「この扉を早く開けるのだ、ステラ。ふざけた茶番は実際に実行すると案外萎えてしまう、そう言うものだ。盛り上がるのは会話だけに留めていた方が良いぞ」
グロリアとオフィーリアから距離を取ろうと後ずさりをしていたが、ベッドに躓いてぽふっと倒れてしまう。や、これは、ちが、そ、そういうことじゃない。その、お、いいんすか? 諦めちゃったんすか? みたいな眼差しをやめろ!
『聖都を守れなかったのは全てワタシのせいですわ』
「へあ?」
『お父様の魔法に前後不覚に陥って軍の指揮ができなかった、それが敗因ですわ』
「うん?」
『お父様はワタシも地上の様子を把握できないと思っていましたのね?』
「どういうことだ? 我の華麗なスパイ活動」
『あ、それは全く関係ありませんわ。なぜならば――』
粗いホログラム越しでもステラの嘆きのため息が聞こえてくるようだった。なんだ? 我のスパカツ! は完璧だったはずではないのか。
『ワタシは魔王であるお父様と、そして、勇者の血を引くもの、忌まわしき神の加護も見通せるのですわ』
しまった、ステラには我の謀は完全にバレていた。何これ、一人だけ完全に筒抜けのまま立ち振る舞っていたとか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。もうやだ、スパイなんてやめる!
ということは、こやつらもグルか。苦々しげにオフィーリアとグロリアの方を振り返ると、
「いやー、すいませんねー、アタシ達、元はといえばステラ様の配下なんすよ」
「私達は有能なのです、賢いモンスターなのです」
なるほど、我がまんまとステラの企みにハマったということは、ステラは確かに我を越えたということか。こやつらも、護衛(護衛とは言っていない)ってか。こんなところで唐突にタイトル伏線回収しないでもろて。
くうぅ、こんなアホどもの策略も見抜けなかったとは、ステラ、我、恥ずかしいよ。
そして、ステラとグルなのはこの二人はもちろん、ここを司っているサクリエルもだろう。そうでなければこんなふざけた部屋をダンジョンに設置するはずがない。
『ワタシが沈痛したのは聖都が壊れてしまったからでも、お父様の策略を見抜きながら神に敗北してしまったからでもありません。それはただ、ワタシの不甲斐なさが情けなかっただけですわ』
ステラには珍しく、その声は自分自身へと言い聞かせるような、そう、自戒と自責の念が籠っているような気がした。な、なんだよ、我が悪いことしたみたいじゃないか。聖都なんてロクでもない場所は破壊した方が良かったのだ、いつかステラもそれに気付く日が来るはずだ。
『お父様といえど、神なんかと通じ合い、我が心の聖地を破壊するなど到底許せませんわ』
「聞いてくれ、ステラ。我はステラのためを思って……」
『そんなありきたりでダメな教育毒親みたいな言い訳は聞きたくありませんわ!』
ビリビリと部屋全体が震えるような絶叫に思わず口を噤む。あれ、おかしいぞ。我はいい父親としてステラからの圧倒的な信頼と愛情を得ていたのではないのか? それを、最近は、サブカルなぞに心酔し、バ美肉されたと思ったらいきなり襲われたり、エロトラップにはめられたり……これ、さてはなんか裏目に出たな!?
しかし、我が自身の過ちに気付いた時にはもう遅い、遅すぎた。
『本来なら反逆罪で即死罪となるところを、ワタシのカワイイ父親ということで慈悲を与えているのですわ』
これのどこが慈悲? 娘に我が醜態が視られてしまうのは完全に死以上の罪なのでは? 身内のそういうエロいところとか見ちゃうのスゲー気まずいじゃん。
「観念してアタシらに身を委ねてくださいよ、きっと気持ちいいっすよ?」
「ある意味で罰として成り立たないかもしれないですが」
なんでこやつらはいっつもヤる気に満ち溢れているの? なんでいつの間にか服脱いでんの? 万年発情モンスターはモンスターなのよ。二人は、にやりと、いやらしい笑みを浮かべてはベッドに寝そべる美少女に襲い掛かろうとしている。完全に魔物のそれだ、エロトラップモンスターだ。
だがしかし。
「おぬしら、失念しておるのかもしれぬが、我は先代魔王ぞ」
今の我には可憐なる美少女程度の力しかないかもしれぬが、この魔力とカリスマは溢れんばかりで未だ健在なのだ。感度3000倍の魔法も触手も効かぬ。我はシャーリイ一筋だ。
「少し父の威厳というのを見せてやらねばならぬようだな」
ゆらり、黒い魔力が焔のように我から燃え立つ。そこのお前、逆ギレだとかは言わない約束だ!
我はゆっくりとベッドから立ち上がる。ぎしり、軋むベッドの音すらも不穏。
「じょ、冗談ですよね、ヘラ様?」
オフィーリアは急にしおらしく黒い羽なんかしゅんと畳んだりして思わず後ずさっているが、もう遅い。ナメてもらっちゃ困るが、我は一応先代魔王なのだ。強い、恐い、カワイイ! 三拍子揃った最強の超絶美少女だということを失念してはいけない。
「我は冗談と本気と書いてマジの境界はわきまえておる。それがわからなかったのは貴様らの方ではなかろうか?」
「ひ、ひいッ」
「たまには我だってぷんッてしちゃうからな!」
……逆ギレとか言うのはやめるんだ、いいな?
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