その結末は大団円……?

「そんな……」


 いつもなら憎たらしい悪態ばかりを吐き出すばかりの声は、今は弱々しく微かに震えていた。


 自らが救えなかった生命と、自らの手で壊した街の瓦礫の中心で、全能の女神、アンフェルティアはただひたすらに立ち尽くしていた。


 神の名のもとに聖都を破壊して、疲弊したところで魔王軍との戦闘。たとえ、女神や天使の介入があったとしても、そんな過重な連戦に人間如きが耐えきれるはずもなく。うひひ、迫り狂うあの黒き怒涛は絶望的に見えただろうな。


 神による街の破壊。


 魔王軍による蹂躙。


 そのどれも、お互いの意図とは、そして、大義とはかけ離れた結末。


この結果を望んだのは、そう、我だけだ。


「アンタなんか大っ嫌い!」


 滲んだ涙をごしごしこすりながら、そんな姿を見せたくないのか、くるりと振り返って姿を消す。ほんの一瞬だけ見えたその顔は悔しさなのか真っ赤になっていて、今にも泣き出してしまいそうなのを必死に堪えているようだった。


 な、なんだ、あんにゃろー。我だってお前なんか嫌いだもん!


「あーあ、何やったんすか、ヘラ様。女神様をあんなふうに泣かせるなんてサイテーっすよ」


「……なんもしとらんわ。てゆーか、オフィーリア、あやつの肩を持つのかよ」


 なんだ、この罪悪感と虚無感は。


 いや、我とあやつは騙し騙され、謀り謀られ、殺し殺される、そういう関係だったじゃないか。あやつだってちゃんと目的は果たしたんだ、別にいいじゃん。


 今さら女神を欺いたところで何がなんだってんだ。正直者が馬鹿を見るのがこの世の常だろ? それを鵜呑みにしたあやつの方が悪いに決まっているじゃないか。あ、謝らないからな、我は!


 ……あやつのあんな表情初めて見た。い、いや、だからなんだという話だが。


「ふう」


 それはそうと。


 我は全てを成し遂げたのだ。


 この跡形もなく荒廃しきった瓦礫の街を見てみるがよい。


 かつての栄光の見る影も無い。


 そして、それらを埋め尽くさんとする人間どもの死体を。これらは、アンデッドやスケルトン、死霊として有効に活用させてもらうとするか。


 まあ、魔王軍の少々の被害と、神の遁走を許してしまったがヤツの泣きっ面を拝めただけでも良しとしようか。


 こうも上手くいくとは、我にはスパイの才能があるのかもしれぬ。うひひ、闇に暗躍するスパイというのも悪くないな。


「ヘラ様、これは一体……」


「ん? ああ、やっちまったなー、神には痛い目見せられたが聖都は壊れちゃったなー」


 我が隣に立つグロリアが珍しく言葉に感情を滲ませる、そう、驚愕の感情を。


 まあ、こやつには嫌な役回りをさせてしまったからな。グロリアがしっかりと伝令を果たしてくれたからこそステラは進軍を遅らせ、聖都の壊滅を止められなかったのだから。


 もはやそこに、かつてむさ苦しい栄華をじっとりと誇っていたサブカルの聖地の面影はない。


 高層ビルはことごとく崩れ去り、フィギュアや薄い本は瓦礫に埋もれ、賑わっていた大通りがどこにあったのかすらわからない。キモオタどもの夢の跡だけがやたらと晴れやかな青空の下で虚しく佇んでいるだけだった。


「……聖都を守れなかった、ワタシの心の聖地が……」


 その小さな声があまりにも絶望的でなんとなくいたたまれない。え、そんなに大事だったの? サブカルなんてそんないいもんじゃなかったぞ? ついつい同情したくなっちゃうが、この結果をもたらしたのは我だしなんとなく気が引ける。


「いやー、残念だったな、ステラ。まあ、これからはサブカルなんぞにかまけてないで、真面目に世界征服に取り組めばよいではないか」


 膝をついてがくりとうなだれるステラの肩をぽんぽんッと叩いて慰める。うんうん、傷心の娘の気持ちを察することができる我は良い父親だなあ。


「……お父様に重要な任務を与えてもよろしいでしょうか」


「ん? お、おう、まかセロリ?」


 依然として、立ち上がることなくじゃりっと砂礫ばかりの土を握りしめたままで、ステラの表情はよく見えない。なんとなく暗くて声も低くて怖いけど、大丈夫? そして、この不穏なタイミングでの任務は何?


「……では、お父様の次の査察は……」

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