勇者になるとはなさけない! ……これで勇者って言えんの?

「ちょっと待てい!」


 な、なんだ、このクソ寒々しい露出過多の痴女のような衣装は!?


「これはもうほとんど裸じゃないか!?」


 スッケスケのひっらひらで大事なところ隠す気ゼロだぞ! 我のじつに美少女らしい慎ましやかな体型じゃ違う意味でアウトなのでは!?


 ふたりはふたりで裸同然でとんでもなくセンシティブな格好だ。なんでそんなにノリノリで着ているのだ?


 とりあえず、我らの詳細な描写はここでは控えて、ほぼ裸で、なんだったら裸の方がマシ、くらい恥ずかしい格好、とだけ言っておこう。モザイク、あるいは謎の光が全身に照射されること間違いなしだ。


 誰でもいい、我を今すぐ滅ぼしてくれないか!


 洞窟の探検にはあまりにも不似合いな格好。いや、どこにもこんな格好でいていい場所なんてない。だが、この格好は最低最悪だ。思わずがくりと膝をつく。この衣装を考えたヤツ、マジぶっ殺す。


「……とうとうこの我が、このようなクソビッ○チのような恰好をするとは。今まで頑張ってエロティックなことは回避してきたのに。我、この物語唯一の清楚系常識魔物だと自負してきたのに」


「そうは言いつつも着てくれてるじゃないすか、ヘラ様意外とノリノリだったりしません?」


「んにゃわけあるか!」噛んだ。


 そう、隣でカチンコチンになりかけているグロリアが考えた作戦とは。


 ……色仕掛け。


 仮にも村人らに勇者だと担ぎ上げられた者がする格好でも作戦でもない。最悪だ、こんなところ村人に見られでもしたら、もう世界を滅ぼすしかなくなってしまう。みんな我もろとも恥ずかし死にしてしまえばいいのに。


「我慢してください、ヘラ様。私だってこんなのエロい格好のヘラ様を目の前にして、襲ってしまわないように我慢しているのですから」


「我慢のベクトル違くない?」


 さては、無抵抗な今のうちにグロリアを叩き割っておいた方がいいか?


 確かに古代よりドラゴンがありったけの宝物と生娘を要求する神話、というのはいくつも存在する。そして、その貢物には罠が仕掛けられていて、それによってドラゴンを弱らせて討伐する。大体の話の大枠はこうだろう。


 だけどさ。


 いくらなんでも、いくらでも情報が手に入る情報過多な今の時代、そんな古典的な罠に引っかかるぅ~?


 さすがにもう学習してるだろ。ハニートラップなんて使い古されてるし、ドラゴンとしてももう懲り懲りだろ。あと、もうこれ以上、人前もとい、竜前に出たくない。


 多種族間での恋愛に口出すつもりはない。我とシャーリイも一応魔族と人間だしな。


 でも、ドラゴンと人間はあまりにも規格が違いすぎて美的観点も合わない気がするのだが。特に、気高きドラゴンの方が、このような低俗的な人間の娘に隙を見せるのか、我には甚だ疑問なのだが。


 しかし、ここまで来てしまったならもう引き返せない。こんなふしだらな格好で村に帰ったら、それこそ、くっころ負けヒロインとして村人から凌辱の限りを受けてしまうだろう。いや、間違っても我らがそんなことには決してならないが、それでもこの醜態を人間どもに晒すのは絶対に嫌だ。痴女だなんて思われたらそれだけで最悪だ。万死に値する。はあああ、マジ滅びたい。


「ええい、このままうじうじしてても仕方ない、女は度胸! 行くか、うわああああ、チクショー!」


「ヤケクソになりすぎてやかましいっすね、ヘラ様」


「でゃまれ! こんなテンションじゃなきゃやってられんって!」


 そうして、意を決してから深呼吸。今は落ち着いて、村のために生贄に捧げられた健気な美少女を演じなければ。べ、別に村人なんかのためじゃないんだからね、査察のためなんだから! 感謝しなさいよね!


 よ、よし、いざ、お覚悟を!


「エ、エイブンジャック様~、新鮮な生贄の我……じゃないワタクシ達が来ましたよ~」


 自分で考えた作戦のせいで温かい服を着ることが出来ず、ほとんど氷像となってしまったアホスライムを引きずりながらエイブンジャックの元にしずしずと歩み出る。


 明らかに我に演技力がないことはオークに襲われたとき、わりと序盤で自覚済みだ、ここはもう溢れ出んばかりの我のセクスィーで押し切るしかあるまい。健気な美少女とは。


「どうもー、アタシ達、エイブンジャック様に誠心誠意仕えるように仰せられてここまで来ましたー」


 オフィーリアが挑発的な笑みを浮かべて颯爽と歩み出る。


 高いヒールに関わらず氷上を堂々とキャットウォーク。少し動くだけでそのたわわなものが煽情的にお揺れになるのは、きっとそのあたりも計算ずくなのだろう。


 それに、そのひらひらと透けた衣装から垣間見える褐色の肢体が雪の白色によく映えている。さすがのサキュバス、的確に男心をくすぐるじゃあないか。


「ワタシタチ、ナニモ、タクランデ、ナイ。イイ、オンナ、ワタシタチ、エロイ、オンナ」


「寒すぎて思考回路は凍土寸前ではないか。貴様は黙っとれ、グロリア」


 今回、グロリアはエロい氷像としてその辺に飾っておこう。スライムは状態異常に強いのではなかったか? そして、こやつ、自称インテリキャラでメガネっ娘だが、たぶんバカだぞ。

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