神回避、オトナの……

「っていうか、せっかくボクが選んだ最新鋭の勇者をあんな風に壊しやがって、どうしてくれるのさ」


 最新鋭? あ、エランのことか。すっかり忘れておったわ。あやつ、元気かなあ。それよりも、グロリアをあんなに景気よくぶっ飛ばしといてよくそんなこと言えるな。神の倫理観どうなっておるのだ。


「あやつはどうせ我らに倒される運命だ。それが不幸にも序盤に遭遇していくらか早まっただけに過ぎぬ」


 我らはこう見えても激カワ先代魔王御一行だぞ、そんなん勇者なんて見たら反射で倒すくらいはするわ。我、悪いことしてないもん。


「し、しかしまあ……、そ、その……」


 女神はごほんと咳払い。ん? 流れ変わった? 少し頬を赤らめつつ、我から目を逸らす。なんだ、その恥じらいの表情は。


 ただでさえ外見はハチャメチャに良いのだから、貴様が普通に可愛い表情しちゃうのはダメだろ。残念美人ってギャップでなんとかなってるキャラ設定やろがい。


「あの純朴鈍感主人公をあんなふうにしちゃうなんて」


 あ、そっちか。いや、そっちかい。


 頭おかしいやつしかいなくてちょっと慣れてきてしまっている自身が恐ろしい。改めて気を引き締めて行かねば。ここで唯一まともな我が陥落してしまっては、めくるめくR18のとても百合百合した物語になってしまう。それだけはなんとか回避せねばならぬ。 


「アイツらにはどんなプレイをしやがったのか根掘り葉掘り聞きつつ、」


「おぬしもおねショタに興味津々ではないか」


「今後の対策のために薄い本にまとめてもらって、」


「今後お楽しむ気がすごい伝わってくる」


「あわよくばボクにもほんのちょっと」


「やめろ! この変態魔神め!」


「お、おい、へ、変態は否めないけど、魔神じゃないわい!」


「全フレーズ否めよ! 怖いよ! 登場人物全員怖いんだよ! 我の周りこんなんばっかりだよ!」


 そうして。


 なんだかんだで無事だった瀕死状態のグロリアを、見せられないよ! な感じで回復させたオフィーリア。「い、いつも、アンタらはそんな感じなんですか?」「何で貴様が滾ってんの?」


 そんで、またしても何も知らない我が呑気に夕食を食べている間、宿屋でグロリア達がエランとの行為をあれやこれや(アンフェルティアとのほんの少しの実践を交えて)ご教授したところ、どうやら、あっさりと神と和解したらしい。なんなん、マジで。


「いやー。さすが神様、結構な名器をお持ちで、いや、神様だから神器っすかね」


「おい、やめろ」


「ふぅ……」


「いや、何満足した感じになってんの? 神なのに賢者タイムってか、うっさいわ、やめろやめろ、この馬鹿者ども」


「さっきから何にもうまく言えてないからね、ヘラお嬢ちゃん」


 我がいないことによる詳細な描写の大幅カット。ギリギリで保ち続けるR15指定。直接的な表現は避けてくださいね!?


「あ、そうだ、聖剣と薄い本のお礼にひとつ警告しておいてあげる」


「なんかイヤだな、そのお礼返し」


「転生者って知ってる? 勇者なんかよりもずっと強いんだよ?」


 転生者。あのサブカルの魔境を作った者らか。


 異世界の知識と記憶を持ち、こやつからチートと呼ばれる能力や異常なステータスを与えられし者。ステラがサブカルの影響を受けてしまった諸悪の根源そのものだが、それが一体何なのだ。


「生まれ持った才能なんて関係ない、その血筋すらも意味がない、長年の努力も弛まぬ鍛錬すら必要ない」


 女神は恍惚たる表情を浮かべている。あたかも世紀の大発見を自画自賛しているようだ。


 こちらとしては異世界などに興味はない。我が欲しいのはただ一つ、この世界のみだ。転生者など取るに足らぬサブカルの伝導者だろう。


「転生者なら、ボクが好きなようにデザインできるからね。あいつら、それで喜んで自分が今まで生きてきた世界をあっさり捨てるんだからイカれてるよね」


「異世界にて死した者を違う世界によみがえらせる、なぞ正気の沙汰ではないな」


 こやつ、あまりにも我に負けこんでとうとう気が狂ってしまったのか? いや、初めからイカレてはいるか。グロリア達と部屋に入ったら、出会って4秒で薄い本しやがったし。


「正確にはボクが殺してるんだけどね、うっかりさ、そう、あくまでうっかり」


「なんだ、貴様も我に違わず外道ではないか」


「ボクはこの世界の神だよ? この世界で生まれたものには愛着はあるけどさ、異世界から転生してきたやつには一切興味がないからね、」


「ならば、どうしてそんな奴らを連れてくるのだ?」


「奴らがあんたら魔物を滅ぼしてくれたらそれでもいいし、そのスキルや知識を使ってこの世界をよりよくしてくれるのも全然アリだし」


 ずいぶんと他力本願かつ性急な成果を求めるせっかちさんだ。これまで長いこと文明の進歩を見守ってきたのだし、現状維持で良かったのではなかろうか。魔王軍はどんどん進撃するけどな。


「で、そやつらがどうした? 薄い本を捧げた神からの警告だ、我らは甘んじて聞こうぞ」


「いやー、アイツらボクの言うこと聞かないんだよね、いや、人の話自体を聞いてないのか」


「制御不能な異物を持ち込むなよ」


「だからさ、それっぽいの見つけても気安く話しかけようなんて思わないことだね。アイツらのことは、人の皮被って盛りのついたケダモノだと思った方がいいよ。アンタ、今はカワイイんだし」


「ずいぶんとボロクソ言うじゃん。ま、貴様の警告だ、肝に銘じておこうぞ」


 こやつから警告とは珍しいこともあったものだ。お互いに相反するものからということは、転生者とはよほど危険な存在だと見受けられる。ステラにも注意させておくか。


「あ、転生者は殺しちゃって全然問題ないから」


「問題はあるだろ」


 仮にも神から出てくるとは思えない発言に思わず耳を疑うも、いやいや、神って結構こういう無慈悲なとこあるよね、人間を含めた生命なんてただの創造物なんだし、って思ってるだろうし、と、なんとなく納得している自分もいたりする。可哀想だなあ、被造物って。


「あのサブカルの街は少しやりすぎな気がするからあとで神の怒りでうっかり滅ぼしちゃおっかな」


「それには我も同意せざるをえない、何なら我ら魔王軍の功績としてもいいくらいだ」


「あはは、初めて利害が一致したね」


 こやつが屈託なく笑うと、まるで少女のようで思わずドキリとしてしまう。だから、美女がそういう普通にカワイイことするのはダメやろがい。


「それじゃあねー、次に会ったときは容赦しないからー」


「それは我のセリフだ、次は必ずぶっ殺してやる!」


 女神は我の言葉に苦笑しやがると、さっぱり名残惜しくなさそうにふっと姿を消した。あやつの気まぐれに振り回される人間どもは大変だな。我がなんとかせねば。


 そうして訪れるしばしの静寂。……なんかどっと疲れたな。


 騒がしい女神が去ってしばらくすると、おそるおそる、といった感じでそっと部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「なんだ、何か用か?」


「お、おお、聖剣を捧げて、この村を神の怒りからお救いなさった貴女こそ真の勇者です!」


「なんでそうなるの?」

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