すぐに寄り道:サブカルの魔王に我はなる!

サブカルのクセが強いんじゃ

「ようこそ、サブカルの聖地、アーキハ」


「おい、貴様、それ以上はやめろ、パロディにも回数限度があるぞ」


 獣耳のカチューシャを付けた機能性皆無の似非メイド服の少女が我らをにこやかに出迎えてくれる。それを公衆の面前で着られる胆力を我も見習いたいものだ。「ヘラ様のゴスロリドレスも似たようなもんすよ?」「え?」


 それにしても、こ、これが、サブカル。


 陽光を受けて銀色に輝く無数の塔を飾るのは、様々な美少女達が描かれた看板やそれらが喧しく羅列された文字と一緒にぬるぬる動く画面。そんなのがこの街の所狭しとそびえ立っている。


 灰色に舗装された道を縦横無尽と往くゴミのような人々の群れ。なんか我だけめっちゃそやつらと当たっちゃうんだが、他のやつらは躱すのめっちゃうまいな。


 なんだか奇抜でお肌の露出がやたらと多い衣装を纏った少女があちこちでポーズを決める度、どこからともなく小汚い男どもがやってきて何やら少女に向けて機械を構える。


「あれはカメラってやつで、あれを使うと風景を記録できるみたいっすよ」


「そ、それくらいは知っておる! ステラと一緒に自撮りしたことあるもん!」


 それに最初に出迎えてくれた似非メイドのようなコスプレ女が、我らが行く道行く道に無数と待ち構えていて、彼女らが働いているであろう怪しげな喫茶店へ案内しようとする。


 人々の喧騒と熱狂がどんよりと入り交じる街。ある種異様な活気がどろどろと渦巻いている。


 異世界、しゅ、しゅごい。


 完全に世界観が違う。異世界転生、めっちゃ便利。


「ね、ねえ、それ、何のコスプレっすか? さ、撮影大丈夫なやつすか?」


「はあ? ダメに決まっておるだろ、初手でそれは悪手なんだよなあ。貴様、まともなコミュニケーションもろくに取れぬのか?」


「おっほ、美少女の罵倒沁みる~」


「キモッ」


「ヘラ様、彼らに蔑みの眼差しはいけません、彼らは罵られて興奮するようなド変態の最低最悪な糞豚です」


「はァ、はァ……ッ」


「……グロリア、めっちゃ裏目に出てるよ?」


「とりあえずここから離れますか、ヘラ様。なんか囲いが形成されてるし、抜け出せなくなりますね、こりゃ」


 そうは言いつつもなんかウズウズしているドSのオフィーリアを、むしろ我らが引きずってなんとか路地裏に逃げ込む。あまりの徒労に思わずがくりと膝に手をついてしまう。


 このきらびやかな街でさえも、銀髪赤目ゴスロリ美少女であるがゆえに目立って目立って仕方ない。


「なんなんだ、ここは。今までの世界観どうした!?」


「どうやら異世界にある街を忠実に再現したようです」


「いや、どう考えたって異世界に影響受けすぎだろ! もっと世界観を大事にしてくれよ!」


「そんなこと言っても、ヘラ様がバ美肉した時点で世界観のへったくれもないっすよ」


「ずいぶんと初期に訳わからんくなっとるじゃあないか、大丈夫か?」


「バ美肉魔王様と剣と魔法と異世界転生が合わされば何の問題もありません」


「グロリア、そんな真面目な顔でキリッと言われても、設定とタイトルだけ盛り盛りの中身のないWEB小説みたいな見切り発車なんよ、それ」


「なるべくエタらないようにしなきゃですね」


「そういう問題じゃないんだよなあ」


 あんまりやりすぎると読者がついていけなくなっちゃうよ。ただでさえメタっぽい要素多いのに。


 というか、こやつらも大概サブカルの影響受けてないか? さすがステラの差し金もとい、推薦、というわけか。


 まあ、こやつらも生半可な男装では隠し切れないほどの美少女ではあるからな。


 金髪ロングで超弩級のナイスバディ褐色お姉さんと、青髪ショートボブのクールビューティメガネっ娘は刺さる人には刺さっちまうんだよなあ。


 あれ? というか、我が見た目が銀髪赤目ゴスロリ美少女だから、イイ感じにバランス取れてない? つまり、そういうこと? え、すっご、ステラ、すっご。


「ところで、あやつらは痴女どもの写真など撮って何するつもりだ?」


「何って、そりゃまあ、ナニを何かするんじゃないすか?」


「それだけのためにあんな努力を?」


「どうやらこれだけではなさそうです、ほら、あれ」


「ん?」


 グロリアが指差す先では、店先に並ぶ、なにやら良からぬ気配を放つ薄い本をパラパラとめくりニヤニヤしている男達の姿。ここには、羞恥心とか猥褻物陳列罪とかそういうものはないのか!? 


 な、なんて薄っぺらいんだ。


 目の前のきらびやかな一瞬の享楽にかまけて、自身へのインプットもアウトプットもされていない。これが華やかなる文明の末路なのか。みんな、アジェンダされたエピデンスのレジュメ見てコンセンサスをパルスのファルシのルシがパージでコクーンしようぜ!


「そういう堅苦しいことは気にしていないみたいですね、この街の人々は」


「むしろそういうのは意識高い系ってバカにされてるみたいっすよ」


「考えることを徹底的に排除し、すぐ目の前にあるインスタントな快楽を追い求めることのみをしているのか」


 涎を垂らしながらへらへらとにやけ笑いを浮かべて、美少女である我らをチラチラ覗き見する弛緩しきった人間どもの姿こそが彼らの真性なのか、それとも異世界転生者が作り上げたこの街の影響なのか我には計り知れぬ。


 我は人間など些末で愚かなモノとしか認識してなかったが。


 このような有り様を見せつけられると、そのおぞましさにこの街の豚共が不憫に思えてきてしまう。


 そして、これは明らかにステラに悪影響だ。このままサブカルを浴び続けると、この街のガリガリメガネみたいになってしまう。もっとみんな運動しようぞ!


「この街のことはよくわかった。早くこんな街から出よう。サブカルめっちゃ怖い」


「一瞬でアンチになってますね」


「人間をこんなにも恐れたのは生まれて初めてだ、この街の住人は自身の身だしなみや他人からどう思われているのか気にしていないのか?」


「何者かが声高に叫び散らかす多様性とアンチルッキズムの哀れな被害者っすかね。接してきたコミュニティが明らかに狭すぎるんすよ」


「コミュニケーション、大事!」


 我らなんてゴリゴリに見た目気にして、我にいたってはバ美肉までしてTPOをわきまえているというのに。人間どもといったら、もう少しおしゃれしてみたらどうだ。


 とりあえず、眉毛整えて風呂入れ。風呂上がりのスキンケアもしっかりな。清潔感を意識するんだ。あと、ヨレヨレの服は今すぐ捨てろ! 服のサイズ感はめっちゃ大事だぞ。あと、運動もしよう! 筋肉、筋肉は全てを解決する!


「あ、そうだ、こんな街、我が滅ぼしちゃおっかなあ」


「いけません、ヘラ様、転生者に見つかってしまうのはマズいです。ヘラ様が先代魔王だとバレてしまったら、ステラ様もNTRされてしまうかもしれません」


「そうっすよ、噂によれば転生者を見た者はどんな者でも奴らを無条件で好きになってしまうらしいですから」


 ちょっと小粋な魔王ジョークのつもりで何気なく言ったのにすごい止めてくるじゃん。そんなにマズいの? え、我、先代魔王ぞ? 強いんだぞ?


「なんだよ、それ。全男子高校生とおじさんの夢と妄想の権化の擬人化かよ。作者の趣味趣向はそっとオブラートに包みなさいよ」


「そういう特大ブーメランなメタいこと言ってると、なろう系警察が来ちゃいますよ。奴ら容赦ないので気を付けてくださいね」


「この界隈殺伐としすぎてない?」

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