はじめての査察は如何程に

「やっほー、ヘラ様ー、久しぶりっすねー、元気でしたかー?」


「ヘラ様、無事査察を終えたのですね? どうでしたか、ズズィーらの軍勢は」


「うむ、ここの死霊らは実にホラー的展開というのを心得ておる。ファンタジーだからといって安易に襲い掛かってこなかったのは好印象だ。そして、動からの静、静からの動、その緩急の妙には高評価を付けざるを得ない」


「めっちゃ楽しそうじゃないすか、良かったっすね、ヘラ様」


「まあ、強いて言えば、ズズィーの個性が少し薄かった気がするが、群体としての死霊の特性故そこは気にしなくても良かろう」


「自我なんてあってないようなものですしね、死霊達って」


 ゆっくりと死んだフリから起き上がる我に駆け寄るオフィーリアとグロリア。


 どうやら、転移魔法を使ったときの我が強大なる魔力を察知して駆け付けたみたいだ。やはり、我がほんのわずかでも魔法を使ってしまうとそれなりの魔物ならば気付いてしまうな。気をつけよ。


 廃城塞に蓄積する怨念集合態のズズィーは今のところ、ここからは出られない。気付かれても問題ない、というか、あやつらは魔王とか人間とか関係なく襲ってくるしな。


 パンパンと豪奢な我が衣服についた埃を払いながら、ゆっくりと周囲を見渡す。


 テキトーに転移したここは廃城塞がそびえ立つ丘から少し離れた草原。


 あんなに近くに死が渦巻いているとは思えないほどのどかな風景。うむ、地上の爽やかな青空や風、というのも悪くはないかもしれぬな。ふわりと我の鼻をくすぐる草の匂いも心地いい。


 魔界と違ってここには、頭上で我らを照らす陽光の恩恵がある。


 それを人間や一部の亜人らだけが享受するなど不公平ではなかろうか。魔物だからといって魔界のみに押し込めるのは良くないのではなかろうか。


「それにだ、今はまだ死霊の軍勢はあの廃城塞とその周囲だけに留まっているが、あやつらがその感染範囲を広げたなら瞬く間にこの領地は生きている者の住めぬ死霊の住処となるだろう」


「うわ、すご」


 この光ある地上に死の国か。ふむ、それはそれでいいんじゃないか。ズズィーをはじめとした廃城塞の死霊達に意思はないが、彼らは生を渇望するもの。いずれはその生への妄執を城塞の外へと滲み出させることだろう。


「ところでキミ達は楽しめたかい?」


「ええ、それはもうショタのありとあらゆる成分を絞り尽くしてあげました」


 ふるりと身体を震わせるグロリア。その恍惚とした無表情だけでどれだけこの二人が楽しんだのかなんとなくわかってしまう。二人ともどことなくお肌がツヤツヤぷるぷるしていてハリがある。先日はお楽しみでしたね。


「アタシ的には洗脳して性ど……傀儡として連れ歩きたかったんすけどね、残念ですけどその前に壊れちゃいました」


 オフィーリアは至極残念じゃなさそうににやりと口角を上げた。この嘲りが我に向かわないことを切に祈る。また夜這いに気を付けねばならぬ日々のはじまりか。


 あのショタ勇者がどのように壊れたのかはあえて聞かないようにしておこう。完全にR指定が跳ね上がるだろうし。我、えっちなのはいけないと思います!


「それでヘラ様、次はどこに行くんすか?」


「ここから近いのは氷閃竜領、ジギンドァガゥダですね」


「それじゃあそこに向かおう」


 そこは報告によると、気温が低く年中吹雪に晒されている地上でも過酷な地域だと聞いている。こんな場所にも人間がいるとは、さては神の加護が機能しておるな? 我の領地だと言っておろうに、忌々しい神のやつも諦めが悪い。


 あの領地を治めるフロストドラゴンのエイブンジャックにもガツンと言わねばならぬかもな。もっと熱くなれよ! って。


 そうだ、我がこっそりその加護をぶち壊してやってもいいな。そうしたら、寒い場所を好む魔物達もきっと喜ぶぞ。


 おっと、その前に。


「そうだ、その前に一度人間の街も見てみたい。ステラをあそこまで惹き付ける最新のサブカルに我も少し興味があってな」


 ここに向かう道中、馬車に乗せてもらったときに少し話した人間の少女が言っていた。この先には転生者が作った異世界の街があるのだと。


 サブカル、なにするものぞ。領地の査察もそうだが、その街も我が目で直接見てみなければ気が済まない。ステラが何に興味を持っているのか、ちょっと怖いもの見たさ的なのもある。


 まだほとんど話進んでないけど、ちょっと寄り道してもいいよね? ね?

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