ちょっと寄り道:はじめてのおつかい

ショタ滅ぶべし!

「……なんだ、人間、我らに何か用か?」


 地獄の業火が燃え盛るような紅蓮の瞳、冷ややかに見下ろす視線の先には。


 我らの足元には倒れ込むように蹲る一人の少年。もちろん人間だ。どこか近くの村人だろう。服はボロボロで、身体中傷や火傷だらけで今にも死にそうだ。


 地上ではじめて会う種族がよりによって人間とは。我が査察紀行も幸先良くないなあ。


 しかし、そんなのに興味ない。


 次の領地を目指す我らの前に突然飛び出してくるとはなんとも無礼な奴だ、斬って捨てようか、御免とな。


 ま、我はこんな小汚い人間なぞにかかずり合っていられるほど暇ではないのだ。斬り捨て御免するほどの価値もない。さっさと無視して


「僕の村が魔物に襲われたんだ、た、助けて!」


 そんなことだろうとは思ってはいたが。


 ま、いつものことだろう。魔物達にはルーチンとして定期的に人間どもの村を襲わせておるからな。日々、どこかで罪もない誰かの悲鳴が上がっているはずだ。


 だから、こやつの悲痛な叫びなぞ、我が心の琴線には何一つかすりもしない。たかが人間の萎びた村が我が軍勢によって呆気なく潰されたにすぎぬ。そこに感傷なぞあるわけがない。むしろ、現場の生の声が聞けたことに喜びすら覚える。


「残念ながら我らは魔物だ、人間の村を救うことに何の価値も感じぬ。貴様はそこで己の無力に打ち震えながら朽ち果てるがいい」


 人間の村なぞに一切興味ない。


 なんだったら、魔物が村を襲っているとなれば、成果によっては彼らの評価もアップだ。


 鬱陶しく縋り付いて来ようとするこやつをぶち殺して、そっちを見に行くか。うむうむ、これぞ旅の醍醐味、ちょっとした寄り道も悪くないな。


「ウソだ! お姉ちゃんみたいなかわいい人が魔物なわけない!」


「え、お、おね……ちゃん? え、わ、我、か、かわいい……?」


「お姉さん扱いに慣れてなさすぎっすよ、ヘラ様」


「相手はショタです、油断は禁物ですよ」


「わ、わかってるわい!」


 しかし、お姉ちゃんとはいい響きじゃあないか。この愚鈍で人を疑うことなど知らぬようなガキに下心などあるはずなかろうし、そんなガキにかわいいと言われるのは正直悪い気はせぬ。


 し、しかしだ。


 ステラがあれほどまでに憎悪するもの、ショタ。我も気を引き締めておかないとあっという間にわからされてしまうからな。ショタは見境なく女を襲うゴブリンみてえなガキ、と認識していた方が良かろう。


「というか、仮にも今の我は眉目麗しきレディだぞ。貴様、いつまで我が可憐な足にしがみ付いておるのだ! 離れろ、無礼者めが!」


「イヤだ、村のみんなを助けてくれるまで離れない!」


 我がどれだけ足蹴にしても、ぶんぶん振り回そうとも、この小汚い少年は意地でも離れなかった。こんな華奢な超絶美少女のおみ足にすがり付くとはいい度胸だ。


「はあはあ……、わかった。だが、なぜ我らのような瀟洒な美少女御一行に助けを求めようと思ったのだ」


「たまたまだよ、僕が逃げてきたところにお姉ちゃん達が来たんだ。それに、」


「それに?」


「女の子が3人だけで魔獣がうろつくような辺鄙な場所を旅してるなんて、きっとお姉ちゃん達は強いんじゃないかって」


「ふ、ふーん」こやつ、見る目はあるみたいだな。


 まあ良い、我らが本当に魔物だということを思い知らせてから、絶望と恐怖をその身に刻み込んでやろうぞ。


「仕方ない、さっさと案内せい。ささt……様子を見てやろうぞ」


 当然、我が見るのは村の惨状の方ではない。この少年の村を襲った魔物らの働きっぷりの方だ。査察というのはやはり、こういう小さなところも見ておかなければな。


「というわけで、魔物(の進軍を止めようとするかもしれぬ不届き者)退治にレッツゴー!」


「「おおー!」」


「ど、どうしたの、お姉ちゃん達?」


 む、またテンション間違えたか?

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