我の名は

「魔王様、そういえば魔王様の呼び方を考えませんか?」


「うむ、確かに何かしら呼び方を考えなくてはな。では、キミ達が好きに決めるがよい」


「え、いいんすか!? で、では……」


「いや、もっとカワイイ方がいいっしょ。あ、こういうのは……」


「可愛すぎます、もっとこう……」


「ねえ、そんなこだわる?」


「「ええ、それはもちろん!!」」


 タイプが正反対なふたりのずいぶんと息の合った反論に思わず口を噤む。ま、まあ、我、魔王だし? 我は寛大なんだワ。べ、別にそういうので泣いたりとかしないもん。


 ずっと、魔王、としか呼ばれてこなかったし、我は名前とかどーでもいいタイプなんだけどね。でも、確かにこれからこやつらと査察に向かうにあたって、名前がない、というのも不便ではあるか。


 しばらく当事者であるはずの我を蚊帳の外に、あーでもないこーでもないと言い合う護衛の二人。あ、あの~? 口論が白熱しすぎてオフィーリアは黒い羽とか角が出ちゃってるし、グロリアは身体の形が保てなくなってないか? そのグロくて卑猥な形の触手何? あと、もう立ち止まっちゃってるじゃん、ねぇ、歩こ?


「ということで厳正なる審議の結果、ヘラ、となりました」


「さっき雑にジャンケンしてなかった?」


 ヘラ、か。まあ、悪くはない。何でもいいと言った手前、イヤだと言うのはカッコ悪いし、キラキラしたDQN的なヤツじゃなくて良かった。


 無事我が呼び名も決まり、そうこうしている間に、地上への出口が見えてきた。


 こやつら、結局歩きながらもめちゃくちゃ議論、いや、途中からはガールズトークになってたな。バ美肉して超絶美少女になった我も、いずれはあの不毛な会話に混ざらねばならぬと思うと今から憂鬱だなあ。


 あの巨大な門を通り抜ければ地上へと出られる。


 以前は人間の奴隷を使って人力で門をこじ開けていたが、今は生体認証でピッとお手軽に……


「あ、まお、ヘラ様、そのお姿になってから生体情報更新してないんすね?」


 オフィーリアが右手をかざして門を起動する。べ、別に更新忘れてたわけじゃないもん。我ならこんな門なんか簡単にこじ開けられるもん。


「ところで、ヘラ様、偉大なる先代魔王である貴女様にこのような説明不要でしょうけど、」


「いや、頼む。我が持ち合わせている見識は少し古いものかもしれぬからな」


「かしこまりました。魔王領は征服した順番に4つに分かれていて、火炎獣領、ントゥンガネーリャ、氷閃竜領、ジギンドァガゥダ、地縛霊領、トーア、雷魔神領、ガカイシです。地上に出れば転移魔法でどこからでも行けますがいかがなさいますか?」


「めちゃくちゃ説明口調のわかりやすい、どこかにいる第三者への解説っぽいの助かる」


「メタっぽいっすね」


「我は移動に魔法は使用しない。それではせっかくの旅路が台無しではないか」


 地上の領土には我の引退や後継、もちろんこの査察のことも魔界が三国時代に突入しかけたことも一切知らないはずだ。我のことを知らぬそういった先入観なき交流こそが大事なのだ。


「ただ領土だけを周るだけでは配下の報告を聞いているのと変わらぬ。旅すがらで出会った人々に話を聞き、自身の目で確かめることこそ旅の醍醐味だというのだ」


「なんかエモいっすね、魔王様」


「うっすい感想だな」


 我にはこの、エモい、という感覚がわからぬ。我は認めたくはないが古き考えの魔族である。業火を吹き、勇者を弄んで暮らして来た。けれども、最近の若者が使う、エモい、に対しては、人一倍に敏感であった。いや、いかんいかん、これではただの老害だ、我はもっとナウなヤングにバカ受けのナイスミドルを目指しているのだ、過剰な言葉狩りは良くないな。


 それに、引退したとはいえ、我は未だに強大な魔力を持っている。そんなのが急に魔法を行使してしまえばたちどころに身バレしてしまうだろう。それは良くない。


 転移魔法も含め、魔法は極力使わないようにせねばな。


「まずは、この身体の慣らしも兼ねて一番楽な環境のところに行こう」


「承知しました。それなら地縛霊領、トーアがよろしいかと」


「あそこは、イビルガイストのズズィーが治めているところか」


「場所も近いのでぴったしかと思いますよ、ヘラ様」


「よっしゃ、それじゃあ行くぞ、地縛霊領、トーアへ!」


「「あいあいさー!」」


「キミ達、さては仲良いな?」

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