第13話 佐々木さんとの出会い


「あ、あのー」 


「え?」


 話しかけられた。


「もしかして手首切りました?」


「……」


 見たらわかることを聞かれた。


「私も、切ったんですよ!」


「……」


 目の前に合された手首を見て、見たらわかることを言われる。


 なんだか、嬉しそうに話す姿に言い返せない。


「私、佐々木朱里っていうんだけど、名前なんていうの?」


「……」


 何も言い返せないまま、何も発さないまま自己紹介が始まった。


「なんていうの?」


 別に答えない理由も、答える理由もない。


 ここでの時間つぶしになりそうだと思って、意を決して答える。


「野々山葵」


「野々山君!」


「はい」


「野々山君!」


「なんですか?」


「読んだだけ!」


「はい」


「私、佐々木朱里!」


「佐々木さん」


「はい!」


 なんだこれ、僕いま幼稚な会話してないか、いや会話してるのだろうか。


「野々山君は、なんでここにいるの?」


 急にちゃんとした質問で、動揺し考える。


「自殺、ヲ、シタ


 簡単な質問で、何かのひっかけなのかと片言に答える。


「そういうことだよね」


「アナウンスで言ってたと思う」


「あー、言ってたかも! なんて言ってたか聞いてた?」


「なんとなく」


 自殺した人が来るしか覚えてない。


「自殺したらここに案内される? みたいな」


「そうだよね。自殺したらあの子が来て、ここにくるもんね!」


「あのこって、金髪の少年のこと?」


「そうそう! あの子なんて言ってたっけかなぁー」


 僕以外のここに来ている人の話は、意外と新鮮で気になるものがあった。


「確か、二文字だった気がするんだよねー」


 なんだろう。


 少し抜けている人、忘れやすい人なのかもしれない。


「名前のこと言ってる?」


「そう! 名前が二文字だったと思うんだよね」


「テン、じゃない。名前」


 さっきの少年の会話内容で何度も言い合ってたから記憶に残っていた。


「テンくんね」


「しっくりきてないみたいだな」


「二文字しか覚えてないから、結局わからないんだよねー、集中してなかったしね」


「あ、そうなんだ」


 この子は、あまり人の話を聞かないタイプなのだろう。


「いいんじゃない、別になんでも」


「そうだよね! てか野々山君何歳?」


「十七」


「同い年じゃん!」


「へぇー。同じ学校だよね」


「ん? 学校?」


「その制服」


 佐々木さんはいわれて自身の服装を見る。


 そして、僕の制服姿にも視線を向けて、あからさまに表情を変える。


 表情に出やすいのが分かる。


「え⁉ えぇー‼」


「うるさい」


 耳を塞いで言う。


「ってことは同じ学校の、同い年ってこと? だよね!」


「声が大きい」


「あっ! ごめんごめん」


 僕の状態を見て、申し訳なさそうに小声になる。


「ん? 同級生なのか、ってことは」


 同じ学校っていうのは分かってたけど、同い年はこちらもびっくりすることだった。


 佐々木さんは僕の言葉に答えるように頷く。


「高校二年生?」


 佐々木さんは頷く。


「緑山高校?」


 佐々木さんは何度も頷く。


「担任の名前は?」


 佐々木は頷きつづける。


「いや喋れよ」


「あっ」


「あっ、じゃなくて、全然、大きい声じゃなかったら大丈夫だから」


「そっか!」


 佐々木さんは喋っちゃいけないと勘違いしてたみたいだ。


「緑山高校、二年! 佐々木朱里だよ!」


「わかった、分かった」


「わかってないでしょ、同い年なんだよ!」


「それがどうした」


「名前で呼んでもいいんだよ」


「ん?」


「みんな私のこと、あかりって呼んでるし」


「みんな?」


「そう、友達は」


「忘れるなよ、僕達初対面だぞ」


「あぁー、そっか!」


 勝手に友達扱いされてたみたいだ。


「それじゃあ、名字で呼んでください!」


「佐々木さん」


「そうそう! さんはいらないんじゃない? タメだよ」


「そういうのって仲良くなってからじゃないのか?」


「そういうものなんだ」


「まぁ、僕もわからないんだけど」


「ならいいんじゃない?」


「無理」


「ケチ」


「どこが⁉」


「野々山君はケチだよ」


「ケチの意味知ってるのか?」


「ケチケチ!」


 佐々木さんは何がいけなかったのかそっぽを向く。


「同じだから仲良くしたいって……」


 背中から聞き取れない小言が聞こえた。


「何か言った」


「ケチ!」


 それから数十分の間、会話は無かった。

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