第12話 赤い線
ススッ、布が擦れる音がした。
音のする方へと視線を移すと、いつも端に体育座りをしている女の子がいた。
確か少年が「二人」という事を言っていたことを思い出して、納得する。
僕の記憶にある女の子しか今はいない。
端で体操座りをして、視線はこちらを向いていた。
目が合う。
印象として、目に光がなかった気がした。
けれど、僕に向ける眼差しに不思議と引き寄せられる気がして、目を逸らした。
無意識の条件反射だ。
日頃、人と視線を合わせずに生きてきた人の癖みたいなものだ。
今も背中に妙な視線を感じる気がしたが、思い違いであると自己解決する。
おもむろに左手を眺めた。
手首に出来た赤い線は固まり始めて綺麗な一本の線に見える。
僕はそんな左手をただただ呆然と眺めた。
思考する力も思い返す力もなく、ただただ気持ちが下がっていく。
この時間が考え直す時間に出来る人はきっと、まだやり直す選択しがあるんだと思う。
右手を握りしめて自身の膝に当てる。
ススッ、布が擦れる音がして、女の子が背後に近づいてくるのが分かった。
二人しかいない空間では歩く音で近づいているのが分かる。
女の子は僕の背後まで歩いて、止まった。
振り向きはしない。
それから体感一時間近く背後に気配は感じつつも振り向きはしなかった。
歩く音はせず、背後から全く動かないでいる。
緊張なのか圧的なものを受けている感覚に陥って体を動かせない。
流石に長いなと感じ始めて、振り向いて確認しようと考え始めた。
その瞬間、ポンポンッ、肩を触れる感覚と音がした。
このまま反応しないか迷うが、これ以上はめんどくさく感じて振り向いた。
見覚えしかないうちの高校の制服、クセッ毛で肩につくぐらいの黒髪、色白でツヤのある肌に、緊張しているのか頬が茜色になっている。
そんな女の子と目が合った。
くっきりとした二重の黄色に近い明るい茶色の黒目。
僕等は体感にして一分近く微動だにせず、女の子が目を逸らして、僕の隣に座り込んだ。
僕は未だ視線は上を向いていてゆっくりと下に落とす。
女の子は僕の左手を宝を見つけたみたいにキラキラした目で見ていた。
そして、先ほどの緊張した雰囲気がどこへ行ったのか、女の子は自身の右手を僕の
左手に並行するように合わせる。
僕は謎の接近に行動に対して動揺が隠せない。
けれど、女の子と合わせられた手を見て、何に対して目を輝かせているのか漠然と理解する。僕の手首にある赤い線が、彼女の手首にもあったからだ。
女の子は自身の手首を僕の手首にあわせて一本の赤い線をつくった。
「同じ!」
女の子はそう言って、自慢するかのように目を輝かせて僕を見つめた。
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