第14話 夢みたいだった


 気まずい。


 そう感じるのも、あからさまに落ち込んでいる隣にいる人のせいだ。


 他に誰かいたならば、こうも気まずくは感じないはず。


 この場合は謝った方がいいのだろうか、まぁ減るものじゃないし失うプライドなんてもうないのだからと、ちょっとした脳内会議を終えて謝罪することにする。


「佐々木さん」


「ん?」


 佐々木さんは瞬時に顔を向ける。


「ごめん」


「なにが?」


「ケチで」


「ふーん、それで?」


「以上」


「終わり? え?」


「それ以外ないだろ」


「呼び捨てむりなの?」


「仲良くなったら考える」


「ケチ」


「ごめん」


「まぁ、いいよ。許す」


 この返しが正解みたいだ。


 これから「ケチ」で落ち込んだら、とりあえず謝ることにしようと決めた。


「野々山君は、次はどうするか考えてる?」


「ん? どうするか?」


 全く聞いてることが分からずに復唱する。


「死に方」


 同い年の女の子に質問される内容じゃなくて、一瞬動揺するも、僕らの状態を考えればあながち話せる内容なのかもと思った。


「あー、考えてなかったな」


「私はねー、考えてるよ!」


「へぇー、何するの」


「学校の屋上から飛び降りる」


「屋上?」


 屋上は僕以外いけないハズだが。


「うん! でも、行けなかったんだよね」


「いけない?」


「そう、前に行ったんだけど、鍵がかかってていけなかったんだよね。人いたんだけど……」


「そうなんだ」


 佐々木さんもしかして、前に何回か来た諦めの悪い奴なんじゃないかこれ。


「明日は空いてるかもって思うんだよね」


 絶対そうだ、諦めが悪すぎる。


「そうだな、空いてるかもな」


 僕がいたら開くな、いなかったら絶対にあかない。


「一緒に行かない野々山君」


「なんで?」


 僕がいないと屋上に入れはしないけど、佐々木さんはそれを知らないはずだ。


「同じだから? 野々山君も死にたいんだよね?」


「あっ、それは確かに……そうだ」


 何だか抜けててふわふわしてるからイメージ出来なかったけど、佐々木さんも何度も自殺をしているんだよな。


 今の佐々木さんの言葉には、死にたい人の重みが垣間見えた。


「いいよ屋上。一緒にいく」


「え⁉ いいの! 午前と午後どっちがいい?」


「いつでも大丈夫だ」


 停学中で時間なんて有り余ってるし、今ならいつ死んでもいい。


「なら、昼休みの時間に集合ね」


「了解」


 佐々木さんに対する返答をした次の瞬間、自室のベット上に戻った。


 まるでキリがいいところで戻されるゲームの様に。


 記憶の中では窓からの光が差し込んでいる昼過ぎだった。いまは夜を迎える前の太陽が沈んだ後だった。


 天井を眺め、今までの出来事がまるで夢と感じてしまうほどに、謎の約束を交わしてしまった。明日合えばそれは本当の現実であることは分かる。


 学校に行くことは憂鬱だが、屋上が目的地なのは案外悪くないとも感じる。


 明日こそは、みんなをどん底に落としたい。

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