第152話 芙美子①

◆芙美子


 部屋が静かになると、白いカーテンがそよそよと動き出した。

 まるで、「ようやく中谷くんと二人きりになれたわね」と芙美子が喜んでいるようだった。

 俺は、ベッドの脇にある小さな腰掛けを、芙美子の傍まで引き寄せて座った。

「静かになったな、芙美子・・」と俺は言った。

「芙美子、せっかく会えたのに、この状態では、すぐに帰らなければならない」

 俺は心の中で話しかけた。

 すぐに事情を訊きに誰か別の人間が来ることだろう。俺はそれまでの時間を芙美子との会話に充てることにした。

 芙美子の顏を見ていると、今にも目を開けそうに見えた。だが、決して開くことはない。

 あれほどの惨劇があったにも関わらず、静かに寝ている。


 澄ました顔で寝てはいるが、さっきまでの惨劇は芙美子の描いていた通りの結果だったはずだ。

「おそらく、芙美子のお義母さんは、助かったとしても重症だろう」

 俺はそう言って、

「けど、それは、芙美子が望んだことなんだろう?」と訊いた。

 カーテンがふわりと揺れた。

「そうよ」と言っているかのようだった。


 俺は芙美子の顔を見ながら、

「これは俺の推測だ。聞いてくれ」と前置きし、

「芙美子は、大学時代、黒田に紹介されて俺と出会ったのではなかったんだな」と言った。

 芙美子を俺に紹介した黒田も芙美子に操られていた。


 義母である市村小枝子は、芙美子がこう言っていたと話してくれた。

「素敵な人を見かけたの」と。

 それは、おそらく俺の事だろう。

「俺の自惚れかもしれないが、聞いてくれ」と再度言った。

「つまり、芙美子は、どこかで俺を見かけて、俺と知り合いになりたいと思った・・そうじゃないのか?」

 またカーテンが静かに動いた。

「だが、俺に近づくことは、そうそうにできない。自分から話しかけることは性格上できなかった。そこで自分の力を使った。誰にも無い力を芙美子は黒田に使ったんだな? 俺に紹介するようにと」

 古田からの情報によると、芙美子が特殊な力を持つようになったのは、二回生の時。それも俺に紹介される少し前の事だ。

「芙美子は、力を付与されたんだな・・」

 俺はそう言った。


 そう、それが物事の全ての始まりだった。

 ・・芙美子は「力」を付与されたのだ。

 それまで、無かった力を与えられたのだ。その力は、意識があった時も、昏睡状態でも続いている。

 芙美子に力を付与したのは誰なのか?

 それが少しずつ分かってきた。

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