第128話 三つ編み①
◆三つ編み
俺は工場長に向き直って、
「木村さん、小山田さんに何てことをするんだ!」と怒鳴った。
「あの女が、みんなの見ている前で、あることないことを言うからだ!」
工場長は真っ赤な顔で反論した。
こいつには何を言っても無駄だ。
俺が工場長の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした時、
女性社員の悲鳴が聞こえた。
その内の一人が、小山田さんが埋もれていた場所を指し、
「小山田さんの頭・・」と声を震わせている。
同時に経理部長が「わあっ」と大人げない驚きの声を上げた。
驚くのも無理はなかった。
小山田さんは、よろりと立ち上がっていた。だがその顔は血だらけだった。
「小山田さん・・だ、大丈夫か?」俺は声をかけたが、すぐにあることに気がついた。
小山田さんの髪にあるはずの物がなかったのだ。
それは、三つ編みだった。
俺が小山田さんの顔を凝視していると、彼女は「へっ?」と首を傾げ、
「係長、私の顔、なんか、おかしいですか?」と訊いた。
俺は小山田さんに起こった状況を理解した。
小山田さんが倒れ込んだ場所に、シュレッターが倒れているのだ。工場長に突き飛ばされた時に彼女の体がぶつかり倒れたのだろう。
その時の誤作動で、彼女の三つ編みがシュレッター口に吸い込まれたと思われる。
さっき聞こえてきた機械の異様な音はシュレッターの音だったのだ。
シュレッターは転倒すれば安全装置が働き動作はストップするはずだ。それが機能しなかったとしか考えられない。
彼女の顔が血だらけなのは、機械が彼女の髪を吸い込もうとした際に、彼女の髪と一緒にその頭皮・・肉も引っ張り込もうとしたのだろう。
だが不思議なことに小山田さんは自分の大怪我に気づいていない。
彼女の痛覚が麻痺しているのか。
それとも何か別の力が作用しているのか・・
そう思った瞬間、辺りに不気味な冷気が漂い始めた。
小山田さんは自分があまりに皆の注目を浴びていることをおかしいと思ったのか、ようやく事態に気づいた。
彼女は、頭にあるはずのものを探すようにした後、
「あああっ!」
小山田さんは頭を抱え込み大きく叫んだ。
「私の髪が・・・髪がああああっ!」
痛みよりも大事な髪を失ったことの方が精神的ダメージが大きいようだ。
頭髪をベタベタと触りまくるので、血がそこら中に飛び散った。どこかの皮膚片がポタリと落ちた。
すぐに強烈な痛みが彼女を襲ったのか、頭を抱えたままへたり込んだ。
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