第123話 他の子③

「お姉ちゃんは、コウちゃんをずっと守ってあげることができないの」

 姉は自分の死期を悟って生きている。

 そんな時、俺はいつもこう応えた。

「大人になったら、お姉ちゃんに助けてもらうわけにはいかないよ」俺は笑って言った。

 黙っている姉に、

「僕は強くなるから、大丈夫だよ」

だから、お姉ちゃんは心配しなくていい。そう言った。


「こうちゃんには、ずっとそばにいてくれる素敵な人が現れるわ」

 それが何度も繰り返された姉の言葉だ。

 その言葉はこう解釈できるのではないか。

「そばにいる」という言葉は「守る」ということに置き換えることができる。

 俺には、姉の言った「そばにいてくれる素敵な人」と「コウちゃんをずっと守る」の言葉が重なって聞こえた。


 そう言った後、姉は何かを呟いていた。

「私が、そうしてあげたいのだけれど・・」

 そうしてあげたいけれど、私はこの世界から消える・・おそらくそういう意味なのだろう。

 中学に入ると、姉にした約束通り、それまで弱かった俺はクラスの中で上位に立つようになった。イジメを受けなくなるどころか、逆にイジメられている子らを助けたりするくらいだった。俺は強くなっていた。勉強もそこそこできたし、運動神経もよかった。


 そして、歳月は流れた。

 姉を失い、心が重く沈みながらも、高校に入り大学へと進んだ。

 人生の真っ当な進路だ。父母も何も言わなかった。

 何も言わない・・というか、姉の死後、両親とはあまり言葉を交わすことがなくなっていた。父は生活力を無くし、その稼ぎを失っていた。母も心が晴れることは無く、優しかった笑顔が消え失せていた。

 気がつくと我が家は、いわゆる貧乏な家と化していたのだ。何とか大学には行かせてもらえたものの、当時は金のやり繰りが大変だったと記憶している。

 だから、俺は決めたのだ。

 このままではいけない・・人生の軌道をもっとアップさせるのだ、と。

 それが俺の人生の選択だった。

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