第106話 写真②
「俺と裕美がドライブしている日・・あの日はどうした? どこかに行っていただろう?」
片倉女史が探偵を使って写真を撮った日だ。×××で、二人で××しているところを。
また頭にノイズのような物が走り、鮮明に思い出すのを邪魔される。
すると妻は、「ああ、あの日」と思い出すような顔をして、
「どこも行っていないわよ。敢えて言うなら、ご近所のスーパーに買い物に行ったくらいよ」
買い物?
「あなた、私が片倉さんのご主人と浮気をしていると、疑っているのね。変に勘ぐっているようだけど、あのご主人。とんでもない人よ。あんな男。こっちから願い下げだわ」
「それほどなのか?」
「ええ、ご近所の主婦の間でも有名よ。お金の匂いをチラつかせて誘惑してくるらしいわ。私の一番嫌いなタイプよ」
妻の一番嫌いなタイプ・・何となく分かる気がする。妻は片倉さんとは真逆の雰囲気を持つ女だ。
俺は何か大きな勘違いをしているのではないだろうか。
何かに振り回されている・・
そう思いはしても、一旦切り出した話を引っ込めるわけにもいかない。
「誰から聞いたのよ。そんなデタラメを」
妻はそう言って、「片倉さんね」と確信したように言った。「あの人の言いそうなことだわ」
「俺は、写真を見たんだ!」
「写真?」
「お前が、××で、×××をしているところの~~だ!」
ああっ、上手く声が出ない!
「あなた、言葉がおかしいわよ」
妻が訝しげに見た。
「今、呂律が回っていなかったわよ」と妻が言った。「まさか、脳梗塞じゃないわよねえ。いやあよ、まだ若いのに」
違う・・そんなんじゃない。頭の中を操作、いや、片倉麗子に見せてもらった写真の部分の記憶だけがいじられている気がする。何かが思い出すのを邪魔するんだ。だが、そんなことを妻が信じるはずもない。
「あなた、どうしたの? 顔色が悪いわよ」
「いや、なんでもない」
話の勢いを失ってしまった。妙な汗が噴き出してきた。
俺は、今、何を言おうとしていたのだろう。どう話を詰めていけばいいんだ?
そうだ!
「美智子、おまえ、最近、香水を変えたよな」
「ええ。よくわかったわね。あなたにしては珍しいわね。いつもは全然なのに」
「裕美も気づいていたぞ」
俺が強く言うと、
「いったい、さっきから何なの? 片倉さんのご主人のこととか、香水のことまで持ち出したりして。香水なんて、これまでにも何度か変えているわよ。あなたが気づいていなかっただけよ!」と勢いよく返された。
話が行き詰まった。埒が明かない。写真の焼き増しをもらわなかったことが悔やまれる。
こうなったら・・
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