第105話 写真①
◆写真
このままにしておくのはよくない。
俺は妻を問い質すことにした。裕美が二階に上がったのを確認すると、俺は応接用のソファーに妻を座らせた。いつもの座り方ではなく、向かい合う格好をとった。
妻の向こうには二階に上がる階段があり、俺の背には大きな絵が飾ってある。西洋絵画だ。
「あなた、なんなの? 何か大事な話があるの?」妻が言った。
俺は「ああ」と答えた。
そして、
「あまり、言いたくない話だ。場合によってはこのまま黙っていようとも思った。だが、裕美のこともあるから、放っても置けない。そう思った」と俺は切り出した。
「何よ。御大層に」と妻が笑った。
「笑うな!」俺が強く言うと、妻はムッとしたような顔になり、
「ちょっと、ちゃんと理由を言ってよ。意味がわからないわ」と抗議した。
「片倉さんは知っているな?」
「ええ、当たり前よ。あなたも知ってるじゃないの」
「じゃ、その旦那のことは知っているのか?」
「ご主人も知っているわよ。それが何なの?」
「会ったことはあるのか?」
「ええ、ご主人にも何度か会っているわ。でも、今は片倉さんとは別居しているはずよ」
「ずいぶんと詳しいな」皮肉を込めて言った。
「いったい何が言いたいの?」
妻は白を切り通すつもりなのか? だが、こっちには証拠がある。片倉さんが見せてくれた写真だ。
写真には、妻と片倉女史の夫が一緒に、×××に行き×××している写真が・・
えっ?・・おかしい。
確かに妻が、××と××が・・
思考が飛ぶ。言葉にノイズが走る!
見たはずの写真が思い出せない。それどころか、言葉も思い浮かばない。記憶の一部が欠如している感覚だ。思い出そうとすると頭が割れるように痛む。
何かに邪魔をされているようだ。
確かに、俺は車の中で片倉さんに写真を見せてもらった。片倉さんは探偵を使ったと言っていたから、間違いないはずだ。だが、その画像が思い出せないのだ。何をしているところだったのか、分からない。
何かの映像を浮かべると、それは、
妻と片倉さんの夫が喫茶店にいる場面に切り替わる。
いや、そんな馬鹿な・・喫茶店じゃない!
俺は頭を振った。
片倉さんに写真のコピーをもらっておけばよかった、と強く後悔した。
「片倉さんの旦那とは、どこで会ったんだ?」
俺が強く訊くと、妻は思い出すようにしてから、「三人では何度か会ったことがあるけれど・・」と言って、
「二人きりで会ったのは、一度きりよ」と続けた。
「嘘だ!」
俺はそう怒鳴りそうになったが、その気持ちを抑えた。
「いつ、どこで会った?」
「ついこの間よ。場所は六甲の喫茶店よ。珈琲専門のいいお店よ。友達と会う時もそこを使うの」
六甲・・遠山みどりが見かけた、と言っていた場所だ。
問題は喫茶店などではない。それ以上の場所だ。俺はその写真を見ている。
「だが、二人きりで会うのは、おかしい。裕美のいない時を狙って行ったのではないのか?」
「人聞きの悪いことをいうのねえ。裕美は平日は学校よ。狙うも何もないじゃないの」
「な、何の用事で二人きりで会ったりしたんだ?」
俺の質問に妻はこう答えた。
「何度もお誘いをされていたのよねえ。ほら、あの夫妻、ネットワークビジネスをしているでしょう? その説明をさせて欲しいって、以前から何度も言われていたのよ。それで、一回は説明を聞いておくのも礼儀かな、と思って」
妻は六甲に用事があったついでに喫茶店で落ち合うことになった。そう説明した。
だが、そんなことで済まされる問題ではない。
「一度きりじゃないだろ」
俺の言葉に妻が眉を寄せ、不快な顔を見せた。
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