第104話 それはいつから?②

 そんな話があったのか。同じ大学、それも同じ時期に大学に通っていながら、知らなかった。まるで、俺の記憶が修正されたかのようだ。

 

 だが、それが芙美子の意思によるものなのかどうかはまだ分からない。

 俺がそう言うと、古田は、

「そりゃ、そうですよ」と言って、「けれど、私も根拠のないことは申しませんよ」と続けた。

「何か、他にもあるのか?」

 俺が訊ねると、「これは別の人から聞いた話ですが、市村芙美子さんは、特異な能力があったそうですよ」と言った。

「特異な能力?」

「ええ・・なんでも、喫茶店に複数人集まった時に、彼女はその能力を披露したらしいです」

「披露?」

「ええ、見せたのです」

 古田はこう言った。

 芙美子は、向かいに座っていた男が煙草に火を点けようと、手にしたライターに発火させた。手に触れず、離れた場所から。

 そこにいた人間はみな感嘆の声を上げた。

 何かトリックがあるのなら、教えて欲しい、と言う者もいたし、テレビに出た方がいい、と勧める人もいたらしい。


 だが、芙美子は「手品じゃないのよ」と笑って、こう言った。

「こんなのができるようになったのは、ほんの最近なのよ」

 最近?

「最近・・芙美子はそう言ったのか?」

「ええ、そうです」

「最近と言うのは、具体的に、いつのことなのか、分からないのか?」

 心が高ぶるのを感じた。

「彼女が、大学に入ってから・・らしいですよ」

「大学に入学してから?」

「ええ、正確に言うと、二回生からだそうです。大学二回生になったばかりの頃らしいです」

 大学二回生・・丁度、俺と芙美子がつき合うようになった頃のことだ。

 もしくは、俺と交際する直前だ。

 何かをきっかけに、芙美子はその能力を得た・・そういうことだ。

 だが、その先にあるものは調べようがない。芙美子でないと分からない。


 俺が考え込んでいると、古田は口調を変え、

「そうそう、言い忘れていました。入院されていた近藤氏の父親は、退院しましたよ」と言った。

 息子は亡くなったが、父親の方は回復したのか・・

「そうなのか・・それは良かった」

 近藤の父親は、芙美子が憑依した看護師に後ろからモップの鋭い刃で首を突かれた。

 重症に見えたが、回復したのならそれで喜ばしいことだ。何も俺は近藤の父親に恨みを抱いていたわけではない。


 それで話が途切れると、

「中谷さんは、市村芙美子がいつから、そのような変わった力を持つようになったのか、それが気になるようですな」と、古田が言った。

 そう言いながら、テーブルの伝票を取り「ここは私が」と言った。俺からの報酬が期待されている今、お茶代など安いものだろう。

 確かに古田の言う通り、芙美子が特異な能力を持つようになった時期が気になる。


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