第103話 それはいつから?①

◆それはいつから?


 話がつくと、古田はご機嫌な様子で。

「市村芙美子という女性は訊くところによると、少し変わったところのある女性だったようですな」

 古田は機嫌を良くして語りだした。

「変わっている子?」

「そうです。近藤氏のことで、彼の友人も含めて聞きまわっていた時に耳にした話ですよ」

 古田が言うには、市村芙美子の周囲で不思議なことが起こった、ということだ。

 それは、あの電車の痴漢騒動のようなことなのだろうか? 俺に痴漢の濡れ衣を着せた女子高生の目をおかしくしたり、連れのガラの悪い男の腕を操ったり、そんな事例が他にもあったのだろうか。


「これは、市村芙美子と同じクラスだった子の話ですが、その人が言うには」と話を切り出した。

 市村芙美子の周囲の人間に怪異なことが起こった、ということだ。

 芙美子と同じクラスだった子は、互いに講義のノートを貸し借りする仲だったらしい。

 だが、ある日を境に、距離を置くようになった。

 不気味なことが続いたからだ。

 最初の事件は大学のゼミの男子学生だった。

 学生は、ゼミの女の子に猥褻な行為を強要した。それを知ったゼミの若い教授は学生を呼び出し注意勧告をした。警察に突き出すことは学生の将来もあってためらったということだ。

 だが、問題はこの後だ。学生の親は大企業の社長だった。つまり、その学生は御曹司だったのだ。会社は大学にも多額の寄付金をしていた。

 教授はただ注意したというだけで、給与の減額という処置をくらった上、一か月後に大学を追い出された。口封じの目的もあったのかもしれない。

 更に事件を隠滅する目的なのか、被害に遭った女性は他のゼミに移された。

 この学生は、他にも好き勝手にやっていたらしい。

 だが、その学生に悲劇が襲った。


 キャンパスを風を吹かせて歩いていたところ、校舎の上から、落ちることのない建設資材が落下してきた。

 細く鋭い資材は、不幸にも学生の頭に縦になった状態で落ちた。つまり、細い学生の体を貫いた上、更に潰したのだ。

 キャンパス内に多くの悲鳴が上がった。

 学生は命を落としたが、修繕業者に落ち度はなかったらしい。まるで資材が何らかの意思を持ったように足場から飛び出したというのだ。

 俺は、話を聞きながら、セクハラ上司が重機に潰された事件を思い出していた。


 芙美子も、便利屋の古田に伝えた友人もそのゼミの生徒だった。二人とも教授の熱心な聴講生だった。そして、被害に遭った女性の共通の友人でもあった。

 芙美子の友人は、「あれは、きっと芙美子の仕業よ」と言った。

 どうして、芙美子のせいだと思ったのか、

 芙美子は、その子に言ったそうだ。

「私、あの男がひどい目に遭うようにお願いしたのよ」と笑ったそうだ。

 それだけのセリフだ。確たる証拠もない。

 だが、友人の女性はその顔を見て背筋がぞっとしたらしい。


 その件は更に拡大した。

 御曹司の父親、つまり、大学に多額の寄付をしている父親が事故を起こした。

 被害者はいない。つまり、自損事故だ。カーブを曲がりきれずに崖から墜落した。

 幸いにも命は取り留めたが、事故を起こす際、フロントガラスに何かがぶつかってきた、と言っていたらしい。だが、そんなぶつかるようなものは何処にも無かった。

 息子だけではなく、その親・・まるで何かの因果が連なっているようだ。

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