第86話 磁場②
何かで聞いたことがある。霊魂が具現化しやすい磁場があるという話だ。
一説によれば、霊魂はどこにでも存在する。だが普通に見えるものではない。
だが、その場所によっては、霊魂が視認できるような場所があるというのだ。
それが、具体的にどんな場所を指すのかまでは知らない。
ひょっとすると、ここがその場所なのかもしれない。
今、俺の中を通り過ぎていったのも誰かの霊魂かもしれない。
霊の存在・・俺はこの年になるまで信じてこなかったが、
本当にそんなものがあるのなら、俺には会いたい人がいる。
ずっと昔、亡くなった俺の姉だ。
「こうちゃんには、ずっとそばにいてくれる素敵な人が現れるわ」
姉は何度かそう言った。まるで何かを予言するように言っていた。
俺は未来に現れる人より、そんな不確かな人より、心優しい姉さんに生きていて欲しい。ずっと傍にいて欲しい。そう願っていた。
だが、祈りも虚しく、心臓の悪かった姉は早逝した。
こんな場所で急に姉のことを懐かしく思い出してしまったが、ここに姉の霊魂がいるとは思えない。この洞窟は、姉にとっては無縁の場所だ。
いるとしたら、それは、芙美子の霊だ。
俺の歩みが遅くなった。この先に進むことに気が引けたのだ。
さっき見たような霊魂が、他にも現れたらたまったものじゃない。学生の時は、あれを見ることができなかったのか? それとも俺に霊魂が見える力が備わったということなのか。
気が進まなくても、俺は裕美に押されるように先に進まざるを得なかった。
行く手の道が狭くなった。穴が近い証拠だ。
「お父さん、まだ先があるの?」
「ああ」
俺の返事が荒くなった。何かに取り憑かれたように歩みが急に速くなった。
白っぽいものが見えた。例の祠だ。
祠が荒れている。前に来た時にあった魔除けのためのような綱がぶち切れてだらりと垂れている。誰かが切ったのだろうか?
ヒューッと風の音が聞こえる。まるで気味の悪い笛のような音だ。
その向こうにある穴の音だ。
懐中電灯で、その場所を照らした。穴と言うか、地面の裂け目だ。深さが分からない裂け目だ。覗き込むと、その奥底が赤く光っているように見える。実際には光など発しておらず、何かの鉱物に懐中電灯の光が当たっているだけだろう。
「ああっ・・」思わず俺は声を漏らした。
この中に芙美子が・・
俺はここに芙美子を・・突き落としてしまったのか?
そう思った時、
「中谷くん・・」
俺を親しげに呼ぶ声が聞こえた。
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