第84話 再び洞窟へ②
そして、気になるのは、
本当に俺が芙美子を洞窟の穴に突き落としたのかどうかだ。
あの時、気がついた時には芙美子が深い穴に落ちていくのが見えた。一瞬の出来事だった。
これはあくまでも仮定だが、
芙美子は、俺の気持ちに気づき、自分から穴の中に落ちたのではないだろうか?
いや、あり得ない。普通ならあり得ない行動だ。
だが、それまでの芙美子のしてきたことなら頷けないでもない。
芙美子は、俺の僅かな願望を読み取り、太ったり、痩せたりしたことがあったし、またある時は、俺の好みかとばかりに派手な格好に身を包んだこともあった。
だとすると、洞窟の中でも、俺の言動や雰囲気で、それと察したのではないだろうか。
そして、自らその身を投げた・・
そこまで思考を巡らせて、首を強く振った。
やはり、あり得ない。太ったり痩せたりとは比べ物にならない。まるで次元が違う。自ら洞窟に身を投げるなど普通では考えられない。
俺の勝手な推測だ。自分に都合のいいように物事を考えているだけに過ぎない。
それでも、俺は知りたいのだ。本当のことを・・
つづら折れを過ぎると、真っ直ぐで平坦な道になり、その先に洞窟のある壁面が見えた。
前に来た際には、他にも肝試しをする目的でちらほらと人が見られたが、今日は誰もいない。
平日ということもあるが、それよりも前に立ちはだかる雑木林の茂みが多くなっていることだ。先を行くのも困難を極める。
道すがら裕美に、
「裕美、この前に言っていただろ。『お母さんが浮気しているかも』って」と言った。
妻のことも気になっている。遠山みどりが六甲で見かけたという話と裕美の言葉が重なっていた。
「うん」
「どうして、そうと言えるんだ?」
「だって、香水が変わったから」
「それだけのことで、どうしてそうと分かるんだ?」
「何となく」簡単に答えた。
どうやら、確かなことがあるわけではなかったようだ。
と、言ってる間に、洞窟の入り口に着いた。
茂みの間に、それとわかる穴がぽっかりと開いている。同時に立ち入り禁止と書かれた表示が何か所か見えた。
「あれって・・洞窟?」
裕美が興味深げに訊いた。
「ああ、そうだ。一応、ここがゴールだ。ここから引き返すぞ」
まさか、裕美と洞窟に入るわけにはいかない。
だが、このまま後戻りをすれば、それこそ何の収穫もなしだ。芙美子の行方が分からずじまいだ。
知りたい。洞窟の中に入りたい。中に入って穴のある場所まで行きたい。
「お父さん、こんな場所、よく知っているね」
裕美の素朴な疑問に、
「学生時代、一度、来たことがあるんだ」
「誰と来たの?」
裕美が追及する。ただの少女の好奇心なのか、それとも、何か知っていて、俺を追い詰めているのか。
「友人とだ」
誤魔化して答えると、裕美は、「ふーん」と興味なさげに言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます