第78話 娘とドライブ①
◆娘とドライブ
「あれから、学校の様子はどうだ?」
俺は前方を確認しながら、後部席の裕美に声をかけた。
裕美は助手席は妻の席だと思っているのか、それとも遠慮しているのか、後部席に座っている。服装は特にお洒落をするでもなく、藍色のパーカーにデニムスカートという出で立ちだ。
裕美は、「担任の先生が変わった」と応えた。
担任の黒川は、警察に連れて行かれたのでは、授業もできないだろうし、学校側の信用も失っているだろうな。
俺は念を押すように、
「まだイジメはあるのか?」と訊ねた。
返事は聞き取りにくかったが、「ない」と言っているようだった。
話が続かない。
カーステレオをかけようとしても、選曲で戸惑う。裕美が普段何を聴いているのかも知らない。聞いたとしても裕美の望む曲はないだろう。仕方なく俺がふだん聴いているジャズをかけると、もっと静かなのがいい、と言われ、クラシックに切り替えた。
けれど、「音楽はかけなくていいわ」と裕美は言った。
ということは普段話すことの父親との会話を望んでいるかと思えば、そうでもないようだ。裕美はずっと窓の外の移りゆく景色を眺めている。
ルームミラーに映る裕美を見る限り、ただの大人しい少女に見える。心のどこかに芙美子が宿っているようには見えない。
少し気まずいが、この先はもっとややこしいことになるのが目に見えている。
何せ、芙美子の消息を知るための旅だ。
これまでの裕美の言動を思い返すだけでも、普通ではないことが多々あった。
その当人と連れ立って洞窟に向かうのは、何かしら危険を伴うような気もするが、俺は悲観的には考えないことにした。
これも普段話すことのない娘との貴重な時間と思えばいいことだ。
それに、裕美に宿っていると思われる芙美子のことが何か分かるかもしれない。
風景は、すぐに田舎道に変わった。
裕美が「何もないわね」と声を上げた。車は兵庫県の中部に向かっている。
いつにもましてのんびりと走っている。今日は、家族には仕事と言ってあるが、休みのようなものだ。幸い、天気も快晴だ。
せっかくの父娘のドライブだから、どこかに立ち寄ってみるつもりだ。裕美との時間はできるだけ割かねばならない。
昼飯も道の駅かどこかでとることにする。
そういえば、裕美は食べ物は何が好きなのだろう?
食事をした後は、肝心の芙美子の消息・・まず、役所に行ってそれとなくあの洞窟で過去に何かの事件めいたことが起きなかったか?
もしくは、誰かが救出されたようなことはなかったか?
これらは、ネットの検索でも何も引っかからなかったし、電話で問い合わせても、何も聞き出せなかった。
何とか理由をつけて役場の人間に訊くつもりだ。裕美には、どこかで待っていてもらったらいいだけのことだ。
大きな道の駅が見えた。車を駐車場に停め、レストランに入った。
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