第72話 嘘①
◆嘘
二人が危ない!
俺の娘、裕美とその友人の高坂百合子が危険に晒されている。
どうする?
会社で小山田さんにとり付いた芙美子に呼びかけ、その行動を制止できたように、その名を呼ぶか、それとも、裕美と高坂百合子を連れ、この場から逃げるか。
俺は、その選択を決めようと裕美を見た。
裕美には逃げようとする意志が感じられなかった。やはり、裕美の中には、別の人格である芙美子が潜んでいるのか?
対して、高坂百合子の方は、裕美の腕をぐいぐいと引き、「裕美!」と呼び、この場を逃れようとしている。
仕方ない。裕美を無理やりにでも・・
そう思った時。
「はああああっ」
もはや本当のメスのカマキリと化した黒川教師の雄叫びのような声だ。更に悪臭が漂う。
その声と重なって別の声が聞こえた。
・・中谷くん、それよりも・・このおかしな先生のことよりも・・
これは、芙美子の声だ。
芙美子が俺に呼びかけている。まるで、何かを教えたいかのようだ。
俺は声の主を確かめようとすべく、改めて女の顔を凝視した。
黒川先生の瞳が大きく見開かれている。目が大きいのにも関わらず、そのほとんどが黒目だ。白目がない!
そして、その瞳孔に一人の人間の姿が見えたような気がした。
この瞬間、俺はさっき交わされた会話を思い返していた。
それは高坂百合子との会話だ。
何か、おかしい。俺は、あの時の違和感を探った。
高坂百合子が言っていた「友達」という言葉。ネットに書き込んでいた少女たちのこと。
俺はもう一度、黒川の目を見た。
・・教師の大きな瞳には高坂百合子の姿が映されていた。
俺は高坂百合子に向き直って尋ねた。
「高坂さん、あんた、俺に嘘をついたな」
高坂百合子は、一瞬、「へっ?」と惚けた声を上げ、「何のことですか?」と訊いた。
「なあ、さっきの生徒たちの異常の話・・どうして君は、異常をきたした生徒たちがネットで裕美を誹謗中傷していた生徒たちだと知っているんだ?」
高坂百合子は詳しすぎた。しかも、その全員の名前を言った。
ある程度は分かってはいても、他の人はそこまでは知るまい。
クラスで休んでいる生徒と、ネットで書き込んでいた少女たちをきっちりと結びつけることはできないのだ。
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