第67話 公園①
◆公園
駅から自宅に至るまでの道中に、小さな公園がある。
ここを通り過ぎる時、いつも姉を思い出す。
この公園ではないが、小さい頃、こんな小さな公園で姉とよく遊んだ。
遊ぶと言っても、大した遊びではなかった。姉は心臓に重い病を抱えていた。
激しい運動は医者から止められていた。だから、はしゃいで遊んでいたのは俺の方だけだった。姉は座って弟の俺を眺めている時間の方が多かった。弟が楽しんでいても、姉が楽しんでいたのかどうかは分からない。
亡くなった人間に問いかけることはできない。
俺にとっての公園は、楽しい思い出が蘇ってくるのと同時に、悲しくなる場所だ。
先日、墓参りをしてきたが、お墓の前よりも、思い出の場所の方が、姉を強く思い出す。
家に向かって急いでいると、公園の方から、
「お父さん!」少女の声が聞こえた。俺を呼ぶ声だ。
俺をそう呼ぶ少女は、この世界でただ一人だ。
薄暗い公園の木立ちの中に、二人の女の子がいる。一人は裕美だ。もう一人は、裕美よりも背の高い子だ。同級生だろうか? まさか公園で裕美を虐めているとか・・
不安になり、手を上げ、合図を送ると、
もう一人の子が会釈をした。
あっ、そういうことか。もしかすると、裕美の言っていた友達というのはあの子かもしれない。
友達がいるからと言うから、てっきり、ネット上の友達かと思っていたが、違ったようだ。裕美が言っていたように姿の見える生身の友達だ。
それならば、挨拶でもしておくか。学校でイジメに遭っている裕美の精神的支柱になっている子なら、父親としても感謝の意を表しておくべきだ。
それにしてもこんな暗い場所で何をしているんだろう? と思いながら、
俺は公園の敷地に入り、「裕美、学校の帰りか?」と声をかけ「そちら、お友達か?」と訊いた。二人とも私服なので、いったん帰って出てきたのだろう。裕美はジーンズ。その子はロング丈のスカートだ。
近づくと、裕美と連れ合っている少女は、けっこうな美少女だ。髪も綺麗にセットされ、どこかのお嬢さまに見えないこともない。
瞳が大きく、肌も白い。
「友達なのか?」と言う俺の問いかけに、裕美よりも早く、そのお嬢さまが「はい、裕美さんとは仲良くさせてもらっています」と応えた。
裕美が自然な美少女だとすると、この子は人工的な感じのする顔だ。要するに冷たい感じがするのだ。だが人形さんのように見えるからと言って、裕美の友人であることには変わりはない。見かけだけで判断するのはよくない。
それに、話し方にも品がある。この前、ネットで読んだ少女たちの話し方とは大違いだ。
こんな子が、裕美の相談相手になっていて、虐めから守ってくれているのなら安心だ。
彼女の名前は、高坂百合子と言った。その名前がしっくりくる風貌だ。
俺はいい機会だと思い、友達がいるにも関わらず、
出しゃばりなのは承知で、「裕美、もうあんなことはないんだな?」と訊いてみた。
あんなことと言うのは、裕美に対するイジメのことだ。裕美は一部のクラスメイトから酷いイジメを受けていた。腕の火傷がその証拠だ。
そして、その主犯格と思しきの三人は、ショッピングモールで大怪我を負った。まだ入院中だろう。
主犯格が不在なら、イジメもないだろう。そう思うが、ネットの中ではそうでもなかった。生徒たちの異常な会話。そして、生徒たちの異変で掲示板が閉じられた。おまけに担任の教師もおかしな言動や咳を繰り返し、電話は切れた。あれ以降、どうなったか、全くもって不明だ。
「あんなこと?・・」
俺の言葉に裕美が答えあぐねていると、高坂百合子の方が、顔に降りかかっている髪を手で払い、
「裕美・・あいつらのこと?」と訊いた。
訊かれた裕美は、「・・だと思う」と返した。その会話だけでも高坂百合子が裕美の友達だと確信できる。
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