第65話 三つの可能性②

 すると、それまで黙っていた裕美が箸を置き、

「お父さん。私もついて行っちゃダメ?」と話を切り出した。

「裕美には学校があるだろう?」

 妻も「そうよ。裕美、学校じゃないの」と合わせた。何を言っているの? という顔をした。

 ところがだ。

裕美は、「再来週の水曜日でしょ?・・その日、学校が創立記念日だから、学校が休みなの」と淡々と言った。

 え・・創立記念日、学校が休みだと!

 そこまでは考えていなかった。浅はかだった。こうなったら予定を変更するか?

「いや、水曜日とは限らないんだ・・仕事の都合で日が変わる可能性もある」と俺は言った。「それに、届けるだけだから、面白くないぞ」

 静かにそう言って裕美と目を合わせた。相手を射抜くような瞳だ。嘘を見破られている。そんな気がした。


「書類を持っていくだけなんでしょ?」と妻が言った。

「ああ、だから、面白くも何ともない。旅行じゃないしな」

 裕美は黙っている。

 これでいい。裕美に洞窟について来られたりしたら大変だ。こんな所に書類を届けるのか、と思われる。

 だが、事はそう上手くは運ばないものだ。

「あら、でもいいじゃない!」妻が声を上げた。

「何がいいんだ?」

 せっかく丸く収まろうとしているところへ妻が明るく言ったので少々苛立ちを覚えた。

「滅多にない父娘のドライブよ。ぜひ、二人で行ってきなさいな」

 妻がそう提案した。妻の言いたいことはよくわかる。しかし、今回は・・


 すると、裕美が「お母さんは行かないわよね」と念を押すように言った。

「ええ、私は遠慮しておくわ。用事もあるし」

「お母さん、のんびりできるもんね」

 そう裕美は子供らしく言ったように思えたが、何かおかしい。裕美の方が大人のように思える。母娘の関係がアンバランスだ。

 そう思った瞬間、

 妻の顔を盗み見た裕美が、「ふっ」とあざ笑うような顔をした。

 裕美は妻の表情から何を読み取ったというのだろうか?


 いずれにせよ、まだ先の話だが、洞窟へは裕美同行で行かなければならない。そういう結果となった。

 さて、どうする? 裕美を連れてドライブ・・そこまではいい。だが、その先にあるのは、あの洞窟だ。

 何とか誤魔化しながら行くか。それとも予定を変更するか・・

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