第59話 咳①
◆咳
「それで、インターネットが何か?」と尋ねると、
「ネットの中には、学校関連の誹謗中傷のサイトがあります。そういうのは見られたことはない・・ですよね?」
「ネットは、仕事やメールくらいしか使わないです」俺はそう応えて、「娘が、その中で、中傷されていると言うんですか?」と尋ねた。
「最近、この類のものが、イジメによく使われています。掲示板にあることないことを書き込んでストレスを解消したり、他人の荒探しをしたりしています。相手を陥れて、自殺なんてしたら、それで『勝った』とか思う子もいるらしいです。そんな空虚な喜びに浸っている子も多くいるようです」
教師はそう言って「本当に、馬鹿みたいですけどね」とクスリと笑った。
そんなことをする子供を憐れむような感じを受けた。自分は上段に位置している。そんな口ぶりだ。子供もそんな風になっているが、教師の方も感情が薄れてしまっているのではないか、そう思った。
俺が「馬鹿みたい?」と言うと、先生は「成長期の子どもというのは残酷な一面がありますから」と言い改め、「みんな、それぞれに自分が正しい・・そう思って書き込んでいるんですよ。だからよけいに始末が悪い」
「それが分かっているのなら、先生が防いでくださいよ。そんな説明を親にする前に」
「そのようなことは難しいのです。学校側からの加害者の特定は困難を極めます」
黒川先生はそう言って、
「問題はそこではなく」と大きな声を出した。まるで俺に裕美のイジメのことをしゃべらせまいとするようにした後、
「この前の、ショッピングモールの事件。おたくの娘さんの仕業じゃないかと言う人が現れ出したんですよ。もちろん、ネット上にですよ」
ずいぶんと荒っぽい言い方だな。とても教師とは思えない。
それに、裕美は何もしていない。したのは・・
教師は続けて、「もちろん、私は、そんな話を真には受けていませんが、親御さん、特に父親であるあなたが、何か御存じではないかと思って、電話をした次第なんですよ」と言った。
何だよ、それ!
教師は更に「その時、娘さんの様子をきっちり見られていましたか?」と言い出した。「何かを振り回してたとか・・ライターのようなものを使っていませんでしたか?」
その言葉を耳にした時、俺の感情がプツリと切れた。
「おい、失礼だろ!」
その声に驚いた妻がキッチンから顔を出した。
「あんた、それより、うちの娘がイジメに遭っていたことを知っていたのか?」
教師に言いたいことは非常に単純かつ明快な質問だ。この教師のようなまわりくどい質問なんかではない。
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