第57話 教師の話①
◆教師の話
「その場所に、あなたもいたらしいじゃない」
妻が俺を問い詰めた。
その場所というのは、あのショッピングモールのことで、「あなたも」というのは、そこに裕美といたということだ。
あの三人の不良娘の惨劇の場所に裕美がいた。そして、俺もいたということは学校で噂になっているらしい。誰かが言ったのだろう。
やっかいなことだ。
「娘さんたち、大変なことになっているそうよ」
俺と裕美は、不良娘たちと出くわしたが、俺も裕美も何もしていない。物事は勝手に起こり、進み、彼女たちは悲惨な目にあった。
そんな一切の話を妻は裕美の担任の教師から聞いたらしい。
「だがな、裕美から聞いたが、あの娘たちは、裕美を苛めていたらしいぞ。腕の火傷を見たことがあるか?」
妻は知らないと思っていたが、「知っているわよ。あなたには言わないで、って裕美から言われていたのよ。私もあなたに余計な心配をかけたらいけないと思って」そう妻は言った。
「大ごとだぞ。火傷だけで済んでいたからよかったようなものの」
俺が戒めると、妻は「だって、今まであなたは裕美に関心なんて持たなかったじゃないの」と抗議した。
俺は「そんなことはない」と否定して、
「学校にはイジメのことを言ったのか?」と尋ねた。
「もちろん、何度も担任の先生に言っているわよ」
「先生は何て言っているんだ?」
妻は「それが、あんまり聞いてくれないのよ。確認するとか、もっと、情報が欲しいとか、話を濁してばっかりで」と説明した。
よく聞く話だが、まさか我が家にも降りかかってくるとは思わなかった。
妻に聞かれるとは思っていたが、
「それにしても、あなた、どうしてまた、裕美とショッピングモールになんて行ったりしたの?」と訊かれた。
この際、仕方ないと思い、妻の誕生日プレゼントの件を説明した。
「それで、私に黙っていたのね」
色々と話はややこしかった。不良娘たちの話をすれば、妻の誕生日を買いに行ったことを話さなければいけない。
いずれにせよ、妻は学校側から話を聞かされることになったわけだ。
妻は「裕美ったら、どういう風の吹き回しなのかしらねえ」と首を傾げた。「あなたと行動を共にするなんて」
それは俺も同じだ。
「その三人の子の様子はどうなんだ? 先生から聞いているんだろう」
「そのお嬢さんたち、かなりひどい怪我らしいわよ」
妻は担任の教師から聞かされた話をした。三人とも当然入院。そして、手術も行われたらしい。
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