第48話 待合所①
◆待合所
喫茶店を出ると「トイレに行くから待っていてくれ」と裕美をモールの休憩所で待つように言った。
裕美は「うん」と子供らしく言って、エスカレーターの近くにある休憩所に向かった。
トイレから出ると、
ドン! と、ドラムのような大きな音が鳴った。同時にマイクのテスト中のような大きな声が聞こえた。吹き抜けの一階の小さなステージで何かが始まったようだ。続けて音楽が鳴り出した。やかましい。
下手くそなボーカルと、騒音でしかないバンドの楽器が耳を攻撃するように響いた。
同時に吹き抜けの照明が落ちて少し暗くなった。ステージの上を際立たせるためだろう。
広いモールの向こうにベンチが並んだ休憩所がある。そこに行くまでにも、何人かのミニスカートのコンパニオンが何かの宣伝のティッシュを配っていたり、ビンゴの誘いがあったりする。
近くでは、大きな熊のキャラクターの着ぐるみが子供たちに風船を渡している。
おそらく客寄せなのだろう。子供たちの両親には、スーツを着た男が何かの勧誘のためにアンケート目的で近づいていく。見ると、リフォームの宣伝のようだ。
日曜大工のようなコーナーでは、何かの工具を実演販売している。
便利なドライバー類や電動工具。高枝切りハサミも販売員がしきりに使い方を説明している。人の集まりの中心に、長いハサミが飛び出ているのが見えた。
俺には全く興味のないものでも人は集まる。不思議なものだ。
男性店員が大声で「何でもすぐにくっ付く。一度付いたら、取れない」としきりに謳っている。おそらく、瞬間接着剤の宣伝だろう。その類のものは何度か買ったが、すぐに取れた。それに、指に付くと中々取れない。役に立たないものは、時間が経つと、ただの面倒なゴミと化す。
そんな接着剤の試供品のようなものを女性店員が配っている。
雑多な音の中をくぐりながら待合室に着くと、
裕美は同世代の女の子たちに囲まれていた。
囲まれていると言っても、たったの三人だ。だが、俺には裕美が囲まれているように見えた。
三人とも服装が裕美よりも数段派手だ。上品な感じではない。いわゆる、ショッピングモールをうろつく不良少女といった感じだ。
裕美はベンチに座っていて、その真ん前に三人の女子が仁王立ちをしている。その顔つきを見ても、とても裕美の友人には見えない。そもそも裕美に友達とかいるのだろうか?
父親は、友達とはどんなことをして遊んでいるんだ? とか、訊くもんじゃないのか、本当の父娘なら、そんな会話があってしかるべきだ。
そして、もしあの女子たちが、妻の言う娘を苛めているという子たちなら、俺は父親として、制止しなければならない。
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