第40話 それから②

 本社では、花田課長の勝手な行動が生んだ不幸な出来事として処理された。

 課長にとって更に不運だったのは、課長が入院していることをいいことに、ある部下が課長の不正を暴いたことだ。

 金の使い込み。それも女性に関わるものばかりだったし、この件がきっかけで、課長の度を過ぎたセクハラ行為が明るみに出た。

 その先導をとったのが、総務の女性課員の藤田さんだ。

 課長からセクハラ行為を受けた女性が次々と名乗りを上げた。

 仮に課長の意識が戻ったとしても、もう会社に彼の居場所はないようだった。


 その反面、女性社員の間では、あることが噂になっていた。

 それは、白井さんのことだ。

「白井さんは切れやすいところがあるのよ」

 総務の藤田さんが言っていた言葉を拡大解釈して、白井さんが花田課長のセクハラ行為に耐えかねて、行為に及んだのではないのか? と推測する人もいた。

 確かにそう思えないこともない。

 あの時の白井さんを見ていると、課長の散々なセクハラの後、白井さんは意を決したように「ショベルを運転したい」と申し出た。そして、セクハラの腹いせに課長に正義の鉄槌を下した。

 中にはそう推測する人もいることだろう。


 ・・だが、それは、違う。

 そのことは俺が一番よく知っている。

 白井さんのせいではない。

 花田課長、経理の白井さん。そして、工場長や、事務の山下さんに、工員達。

 運命の歯車がどう動いてこうなったのかは分からない。

 ただ、確実なことがある。

 それは、この人たちは全員、芙美子の存在を知らないことだ。

 そして、更に言えることがある。

 俺は芙美子のことを第三者に話すわけにはいかない・・

 俺の過去を話すこと、それは俺の破滅を意味する。


 俺は思った。

 芙美子が生きているか、どうかは分からない。

 だが、もう芙美子は死んでいる。俺が今まで見てきたものは芙美子の死霊だ。その思いの方が強くなった。

 もし、これまでの現象が芙美子の死霊であるのならば、

 ・・いったい芙美子は何がしたいのだ?

 芙美子は俺に恨みを持ち、懲らしめたいのか?

 周りの人間の悲惨な様子を見せ、俺が苦しんだ後に息の根を止めたいのか?

 だったら、一気に俺を・・

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