第36話 部屋の窓②

 その疑問が膨らんだ時・・

 異様に大きなエンジン音が工場の敷地から聞こえてきた。

 それは調子が悪いとされている噂のパワーショベルの音だ。

 まさか・・


 俺はテーブルから離れ、山下さんが覗き見ている窓に駆け寄り、その横に並んだ。

 巨大なパワーショベルが吠えるようにけたたましい音を出し、カタピラがガラガラと回転している。

 そして、重機のメインである危険極まりないアームが上下に大きく振られている。とても素人が興味本位で操縦していいものではないことは一目見て明らかだ。


 だが、そんな重機の操縦席でレバーを握っているのは、

 経理部の白井さゆりだった。

 操縦席は、操作する人間の全身が見えるようになっている。

 ヘルメットを被った彼女のタイトな制服のスカートがずり上がり、白い太腿が剥き出しになっているのまでよく見える。

 そんな扇情的な光景を更に間近で見ようと、重機の真下で花田課長が目を凝らし、食いつくように見上げている。

 危ないので、工場長の木村さんが、花田課長が重機に近寄り過ぎないように制しているのが、ここからでも分かる。

 工場長は作業用のヘルメットを被っているが、花田課長は無帽だ。セクハラはするし、規則も守らない男だ。


 そんな課長と工場長の二人を見ながら、真横の山下さんが呟いた。

「・・あんな男、いなくなればいいのに」

「え、何か言いましたか?」

 そう訊ねると、山下さんは「え?」と言って、とぼけた顔を見せた。

 だが、確かに聞こえた。

 あんな男・・それが、工場長の木村さんを指すのか、花田課長のことなのかは分からない。

 いや、たぶん。花田課長の方だろう。さっき白井さんは、事務員の山下さんも課長からセクハラを受けているんじゃないか、と推測していた。それが本当ならば・・いや、本当だろう。白井さんは鋭い。


「あの経理の女性、手が大きいですよねえ」

 そう言いながら山下さんは目を細めて、パワーショベルの操縦席を見ている。

「手が大きい?」俺が訊き直すと、

 山下さんは、「いや、大きいというよりも・・指が長い」と言い改めた。

「そんなの遠くて見えないでしょう」と、俺は言った。

 そこまで見えるのはおかしい。


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