第34話 行動②
そんなことを考えていると、会議室がドアをノックされて、事務員の山下さんが入室してきた。
「あら、花田課長さんは?」と訊いてきたので、「女性社員を連れて、その辺・・工場見学をしに行きましたよ」と返事した。
さきほど白井さんから、この事務員の山下さんと、工場長の木村さんの不倫話を聞いているので変な色眼鏡で見てしまう。
「何か、課長に用事があったのですか?」
山下さんに訊ねると、
「さっき、花田課長があまりにもパワーショベルのことを言うものですから、メーカーに早く直してもらうように工務の人に言ったんですよ」と言った。
「わざわざすみません。課長の我儘につき合わせてしまって・・工場なんだから、騒音があるのは当たり前なのに」
俺がそう言っても、山下さんは更に話を続けた。
「そしたら、工務の人が言うには、丁度、メーカーから電話がかかってきたところだったんですって」
「はあ・・」
俺は気のない返事をした。パワーショベルの故障や、メーカーの話などはどうでもいい。
それは工場内の問題だ。
そう思った俺に山下さんはこう言った。
「あのパワーショベルは、しばらく使用しない方がいいかもれません・・ですって」
使用しない方がいい・・随分とあやふやな言い方だな。
山下さんは、「だから、エンジンを止めるので、もううるさくはないですよ」そんな趣旨のことを伝えに来たのだ。
だが、いやな予感がした。
その黒い予感は何かの形となって、先ほどの白井さんの髪を解いた姿と重なった。
「それって、工場長の木村さんに言いましたか?」
気になって俺は山下さんに尋ねた。
山下さんは「まだ言ってませんよ。さっき聞いたばかりですから」と答えて「今の時間は、誰も使用しないはずですよ」と説明した。なるほど、そう言えば、さっきから重機の音はしていない。だが、
「けれど、花田課長が、うちの白井さんをパワーショベルに乗せてあげると言って、さっき出て行ったんですよ」
「ええっ、白井さんが・・彼女、免許を持ってないでしょう?」
俺は、「ところが、持っているんですよ」と返して、「うちの課長は、工場長にごり押しをしてでも白井さんをショベルに乗せるかもしれません」と言いかけると、
「でも、それは工場の規則違反なんです」
そう説明する山下さんに「でも、本社のえらいさんの頼みとあっては、乗せないわけにもいかないでしょう」と言うと、
山下さんは、「そんなっ、うちの人は・・」と言いかけ、「工場長は、おいそれと規則を破る人ではありません」そうきっぱりと言った。
山下さんは、よほど工場長の木村さんに信頼を置いているのだろう。
二人が出来ているかどうかは定かではないが、それほど実直そうな山下さんが保証するのであれば、まずはひと安心か・・
二人が恋仲なのか、どうかまだ不明だが、二人が、生真面目であることに変わりはない。
じきに課長と白井さんは戻ってくることだろう。いやな予感は気のせいだった。
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