第7話 洞窟②

 そんな未来の光に反比例するように、洞窟の中は、暗く、じめじめとしてきた。

 暗く、狭いし、どこを歩いているのか分からない。おまけに寒い。一人で歩いていたら、本当に迷い子になったように感じることだろう。

 懐中電灯で進む俺に、芙美子は、

「中谷くん、もう戻りましょうよ」と小さく言った。

 いつも俺の行く道を遮ったことのない芙美子が珍しくそう言った。

 俺は冒険好きを装い、「もう少し先に行ってみよう」と言って、芙美子を無理やり引っ張った。

 数分歩いただけで、もう他のカップルの姿は見えなくなっていた。

 さすがの俺も、少し怖くなっていた。

 やはり、戻ろう。引き返すのなら、今しかない。そう思った時、


 狭い道を抜けたところに、祠のようなものが見えた。

 そこには、何かの魔除けなのか、太い綱が幾本もかけられている。何かを封じ込める為のものにも見えた。

 つまりは、「ここから先には進むな」という誰かの意思の表れだ。この先を進む人間はいないだろう。

 いたとしたら、それは俺のような目的を持つ人間だけだ。

 その時の俺は、そんな不気味な場所、人が足を踏み入れない場所を更に好都合だと考えていた。

 心が変わっていくのが感じられた。俺の中に、何かが憑りついたようだった。ためらいが消えていた。


 この先は、歩くことはできるが、かなりの悪路だ。足場も悪い、かなりぬかるんでいる。

 その上、悪路の奥が、どうなっているのか分からないほど本当の迷路のように入り組んでいるようだ。

 空気が冷え、体中に悪寒がぞぞっと走った。


「なあ、芙美子、この先に行ってみよう」

「怖いわ。出られなくなったらどうするの?」

 芙美子は本当に怖がっている様子だった。

 だが、俺は知っていた。芙美子は、俺の言葉に従わないはずはない。芙美子は俺の言葉に逆らったことは無い。

 俺は、半ば強制的に芙美子を引っ張っていった。


 迷路は進むにつれ、暗くなり、足元も見え辛くなった。

「ねえ、もうよしましょうよ」

 そう言う芙美子を俺は無視した。

 すると、

「中谷くん、どうして、私をこんな場所に連れてきたの?」と芙美子が訊いた。

 芙美子は繰り返し俺を問い詰めた。冷たい洞窟の中で俺は汗が滴るのを感じた。

 焦った俺は、「うるさいっ!」と大声を出してしまった。

 芙美子は「中谷くん・・すごくこわい顔」と驚いたように俺の顔を見た。

 闇の中、芙美子には俺の表情が見えていたのだろうか?


 その時、ヒューッと風が抜けていくのがわかった。洞窟の中を風が吹くということは、この辺りのどこかが、大きな空間と繋がっているのだろうか? そう思った。

 その証のように、数メートル先に地面の裂け目のような箇所がいくつかあるのが分かった。しかもその裂け目は光の加減なのか、赤く光っていた。

 ここから見ると、深さがどれくらいなのか視認できない。

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