第53話「雷鳴領域」
『Exseed charge――Plasma field』
ローゼイドが『仮面』を槍の柄に装着する。
槍の穂先から、雷の玉が放出される。
玉が割れて、網が展開される。
電気の網は鴉ゴレイムにまとわりついて、電流を全身に流し込みながら動きを封じる。
【Plasma field】は電流の網でできた対象を拘束する技。
彼女は、自身にビームを打ち込むが、網は破れない。
「電気の網は、ビームじゃ壊せないだろう?」
「ほう……」
実体がない電流の拘束は、時間経過以外では絶対に壊せない。
拘束できる時間は、わずかに一分。
「しかも、これは気を抜いたら持っていかれますね」
【Plasma field】は単に相手を拘束するだけではない。
拘束したそばから相手を雷撃で削り取り、動けぬまま滅する技。
今この瞬間も、外殻は急速に雷撃で消滅し、しかして鴉ゴレイムの再生力でダメージはコアまでは通っていない。
だが、無視できるダメージではなく、再生にエネルギーを回さなくてはならず、拘束から脱することはできない。
二人のプランはいたってシンプル。
片方が拘束して、もう片方が攻撃を当てる。
防御力も、再生力も今までのゴレイムとは比にならない。
だから、全力の必殺技である【Exseed charge】を当てる必要がある。
ゆえに片方が広範囲拘束技を使い、もう片方が渾身の最大火力をぶつける。
『Form change――Rapid rabbit』
ヴェーセルは、『兎』をまとい、鴉ゴレイムの視界から消えた。
彼女の最大火力は、攻撃力特化の『猿』ではない。
速度と脚力に秀でた『兎』がその勢いのままに繰り出す蹴りこそが、最強の一撃である。
無論、勢いに乗っただけの蹴りは隙だらけだが。ローグのイクシードスキルはその隙を潰してくれる。
あとは、助走をつけて渾身の蹴りをコアに当てるだけ。
当てられれば、すべては終わる。
「ならば、ビームを当てるまでですよ」
鴉ゴレイムもまた、相手が全力の一撃を見舞おうとするのを察している。
ゆえに、ヴェーセルの攻撃にビームを当てて相殺すれば、あとはどうとでも対応できると考えるし、それは正しい。
『Exseed charge』なる大技が日に一度しか使えないことも確認済み。
それらを放ち、使い切った後であれば、もう二人とも脅威にならないしどうとでもなる。
ヴェーセルは電撃の結界の周囲を駆け回る。
走って、跳んで、時にはフェイントを織り交ぜて。
相手に的を絞らせず、ビームで相殺させずに全力の一撃をぶつけるために。
「あらら、動きが読めない」
「ぶち殺してさしあげますわ!」
鴉ゴレイムには、ヴェーセルやローグのようなはっきりした前世の記憶はない。
それは、肉体が魂にもたらす影響ゆえに。
人の肉体に生まれ変われば人の心を保つことができるが、例えば虫に転生すれば虫のロジックで動くことになるだろう。
鴉ゴレイムも、いやすべてのゴレイムにも同じことが言える。
生前どれだけ善人であろうと関係なく、プログラムされた人間への攻撃と捕食を辞めることはしない。
一つだけ、覚えているのは宝石のような綺麗なものが好きだったこと。
だから、アメリアを殺して成り代わった後も、宝石や人の目玉を捕集し続けた。
余談ではあるが生前のアメリアには、そのような趣味はない。
鴉ゴレイムのこだわりである。
「さて、と」
一度直接、眼前で見たことがある彼女は知っている。
『兎』の必殺技は、端的に言えばかかと落とし。
フェイントを織り交ぜようと関係ない。
所詮は上からくることが確定している。
目で相手の攻撃を追っているふりをすれば、ヴェーセルはフェイントが効いているという風に判断する。
『Exseed charge』
先に動いたのは、当然ヴェーセルの方だった。
十分に加速したと判断したか、あるいは『Plasma field』の効力が消えるのを嫌ったのか。
いずれにせよ、鴉ゴレイムの狙い通り。
ヴェーセルは天井へと飛びあがり。
「そこですね」
狙いすました、三度目のレーザーが、放たれる。
上に放出されたレーザーは寝室の天井を破壊し、さらに上の階の天井や屋根すらも貫いて、夜空に光の柱を築き上げる。
「勝った、かな」
「なんて火力だ」
一撃で城を破壊した彼女を見て、ローグはぼやく。
鴉ゴレイムの目には、星と月、雲と闇によって構成された夜空が光っていた。
エネルギーを消費するために、乱発できない切り札。
それこそ、ゴレイムとして生まれてから今日まで一度も使ったことはなかった力。
加えて、レーザーは一度放つと再度発射する前に冷却と充填をはさまなくてはならない。
だが、それでもヴェーセルを落とせれば十分だ。
あとは雷の結界が切れ次第、すぐにここを離れて、フィリップを負う。
殺して、目をくりぬいて、食らって、飾る。
生前、子供だった彼女がビー玉やプラスチックの宝石を集めていたように。
「?」
そこまで考えて、妙だと気づく。
レーザーを当てたのなら、悲鳴や肉の焦げるにおいを知覚できるはずなのに、どちらも感知できない。
であるならば、その理由は。
「これも、フェイント!」
「その通りですわ!」
目線を下げると、
鴉ゴレイムも、見て知っていた。
『兎』には即席の足場を作ってくれるスキルがあることを。
足場を使い、跳躍することで鴉ゴレイムの視界から消えたのだ。
一撃を、彼女に当てるために。
◇◇◇
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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