第52話「犠牲者の数」

「こんなのありですのっ」



 ヴェーセルはとっさに倒れて、攻撃を回避していた。

 倒れたまま、ヴェーセルは穴の開いた壁を見る。

 ヴェーセルが蹴りで壊したものとは別に、壁がほぼ丸ごと消し飛んでしまっている。

 その奥にある、隣室の壁にすら穴が空いている。



「なんて威力だ」



 とっさに身をひねっていなければ胴体が吹き飛んでしまっていたはず。

 お嬢様言葉が失われ、余裕がなくなっている。

 アメリアの、鴉ゴレイムのことをあまりにも過小評価していた。 

 動きを封じればそれで終わりだと思っていた。

 ペンギンのように、特殊能力を使ってくるということは理解していた。

 だが、目からビームを放ってくるなどと、あまりにも想定外すぎる。



「というか、これは死人が出ているのでは?」

「それはないよ。フッ」

「あら?」



 鴉ゴレイムの眼前に、一本の槍が飛来する。

 杖と炎で構成された槍は、顔面に命中し、首から上の左半分を吹き飛ばす。

 仮面騎兵ローゼイドが、どさくさに紛れて奇襲をしかけたのだ。

 頭部を消し飛ばした、それも二回。

 人間ならばもちろん、仮面騎兵にとってすらも変身解除には追い込まれる致命傷である。

 だが、それでも。



「あらあら、怖いですね」

「怪物め……」

「フッ、通常よりも再生が早いな。やはり君や私と言えど一人では荷が重い相手とみていいだろう」



 ローグいわく、通常ロックゴレイムは仮面騎兵一人と同等の戦闘能力を持つらしい。

 だが、それは初期値の話。

 わかっているだけでも数十人は食っている彼女の場合は、それが当てはまらない。

 ローグとヴェーセル二人で戦ってもなお、勝てるかどうか。

 そこまで、彼女は強化されてしまっている。



「ローグ、頭は一度私が潰しました!多分コアは心臓部にありますわ」

「いや、全身消し飛ばそうとしたんだけどね……」



 鴉ゴレイムの右目から湯気が出ている。

 ビームの反動が出ていることからわかるのはただ一つの結論。



「直前に光線を当てて相殺しましたか。その槍、使えまして?」



 見れば、ローグの手元にある炎の槍も刃が欠けていた。

 あのレーザーをまともに喰らえば、仮面騎兵と言えども命の保証はない。



「問題ない」

「作戦は、道中示し合わせた通りで、いいですわよね?」

「フッ、安心してほしい。いざとなれば『雷』を使おう」



 二対一、なおかつ体は拘束している圧倒的にシェリアたちが有利な状況で。

 なおも、鴉ゴレイムは余裕の態度を崩さず。



「うっとうしいですね」



 またしても、目から光線を発射した。

 とっさに射線を予測してローグとヴェーセルは避けるが、鴉ゴレイムの狙いは二人ではない。



「鞭が……」



 彼女の体に巻き付いていた鞭が焼き切れている、ついでにドレスも燃え尽きている。



「さて、拘束が外れましたね」



 鴉ゴレイムが、その全身を露にして一歩ずつ近づいてきた。

 ゆえに作戦と連携は破綻してーーいない。



「スイッチ!」

「了解」



 ヴェーセルは、一歩後ろに下がる。

 同時に、ローグは一歩前に出て。

 二人とも自身の『仮面』に触れる。



『Form change――Horse Chainsaw』

『Form change――Lightning』



 仮面騎兵ヒールは、蛇の覆面を脱ぎ捨てて、馬の覆面を被りチェーンソーを担ぐ。

 仮面騎兵ローゼイドは、その手に持った槍の色を深紅から雷を示す黄色へと変じさせる。



「拘束しろ!」



 ローグは雷撃を槍から三発同時に放つ。

 ローゼイドの特性は、魔力量を無視した無尽蔵の魔法行使。

 ゆえに、それができる。

 一発目は、身をひねって躱される。

 二発目は、翼で止められる。

 三発目は、頭部に命中し、鴉ゴレイムが硬直する。



「おおおおおおおおっ!」



 チェーンソーを振るい、胴体に衝突させる。



「……っ」



 だが硬直していたの一瞬。

 翼をはためかせて、ヴェーセルを突き飛ばす。



「くっ!」



 ダメージはさほどないが、彼女の攻撃もまた、刃筋がずれてしまいコアを切れずに終わった。



「フッ、だが収穫はあったね。あくまでも電撃を使えば動きは止められるらしい」



 電撃による硬直であれば、レーザーをもってしても解除できない。

 一瞬で破壊される鞭と比較すれば、かなり安定して相手を拘束できる。



「ついでに、やはり奴のコアは心臓部にありますわ」

「なるほど、了解したよ」



 ヴェーセルは、チェーンソーで胸部を攻撃した際に見えていた。

 宝石のように輝く、鴉ゴレイムのコアが。



「そういえば、氷魔法じゃダメなんですの?」

「氷だとレーザーで溶かされるでしょ?」

「ああ、なるほど」


 そんなやりとりをしつつも、彼女は武装を切り替える。


『Mower motorcycle』



 チェーンソーがバイクに変形。

 バイクに乗ったヴェーセルが、ぐるぐると鴉ゴレイムの周りを回る。

 速度で攪乱しつつ、電流での高速で動きを封じたところを攻撃する。



「ならば、貴方を」

「させない!スイッチ!」

「んあっ」



 レーザーでローグを狙おうとしたところで、バイクにのったまま、前輪で顔を弾き飛ばす。

 


 そして、そのタイミングで。



『Electoric charge』



  雷撃をまとった槍を構えて、ローグが突撃してくる。



「く、あ」



 しかしそれは、二つの翼によって阻まれる。

 両翼は砕け、胸部には罅が入ったがそれだけだ。

 そこで止まっている。



「ふんっ」



 鴉ゴレイムは、ローグの顔を蹴り上げる。

 吹き飛ばされて、ローグは壁にたたきつけられる。



「こほっ、フッ、やはり力の差は歴然だな。これまでは、騎士団が助けてくれたのだが、今回はそれも期待できないときている」



 時刻が深夜だ。

 夜に勤務している騎士もいるのだろうが、絶対数が少ない。



「切るしかありませんわね、切り札」

「フッ、私に任せなさい」



 ローグは、自身の仮面に触れた。

 彼の最大最強の技を、使うために。


 ◇◇◇

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