次の日

「日が昇ってきたな」


 ヘイホーが眠る丘の上に、俺達は座っていた。


「城から上がっていた火も、見えなくなったねー」


 王都の象徴だった城は、炎上して半壊状態になっているのが、遠くから見てもわかった。


 火は治まっているように見えるが、黒い煙が上がっている。まだ、火がくすぶっているのだろうか。


「ここに、ロックが話している友達が眠っているのね」


 コトミは、そう言うと、ヘイホーの墓前で手を合わせている。


 金髪で美しい女性が手を合わせる姿は、天使が手を合わせているように見えた。


「ヘイホー。今頃、メロメロだよー」


「そうだな。何十年かして、天国に行ったら、感想を聞いてみようぜ」


 トッポとフーミンは、笑いながら話す。


「反乱は、どうなったんだろうか」


 一応周りには、フーミンとトッポが連れて来た、反乱軍三十人に見張りを頼んである。


「ロック様!」


 ワイシャツに黒ズボンをはいた男が丘を登ってくる。この服装をしているのは、月と黒猫の構成員だ。


「どうした?」


「グレム様から、『城に帰還せよ。今回の反乱は、成功じゃ』と伝言です!」


 俺達、四人は顔を合わせた。


「てことは」


「俺達の勝ちだ」


「やったー!」


 みんなで、手をあげて喜んだ。


「そうとなれば、話は早い」


「早く城に戻ろうー」


「うん!」


「おい、フーミン。見張りをしてもらっている仲間を集めて来るぞ」


「わかったー」


 トッポとフーミンは、仲間を呼びに丘を下って行った。


「ヘイホー、最後にみんなが集まったのは、お前の元だったよ。ありがとうな。ヘイホーがいなかったら、俺は目の前に敵が現れた時、死んでいたよ」


 フーミンとトッポが、ヘイホーの所に行くって、わかってなかった時を思うと背筋が凍りそうだ。


「良い友達に関われたんだね」


「生まれや、育つ環境は最悪だったが、友人関係だけは最高だった。それは、自信持って言えるよ」


「ロックー! 先に集まろー!」


 丘から下を見ると、フーミンが手を振っている。


「ヘイホー。また、来るからな」


 俺は、ヘイホーの墓石を撫でた。


「コトミ、行くか」


「うん」


 俺とコトミは、丘を下った。




 城に戻る道中、城門の前には大勢の人だかりができていた


「昨日の騒ぎは、なんだ!?」


「サクラ王国は、どうなっている!?」


 民衆は、昨日の出来事で混乱しているみたいだ。


「ロック様。正門は、人だかりが多くて入れません。裏口から、お願いします」


 案内役をしている月と黒猫の構成員に、ついていく。しばらく歩くと、城壁についている小さな入り口を案内された。


「こんなとこに、入口があったのか」


「昨日の反乱のさい、見つけました。おそらく、こういう有事の際に、使われる脱出口なのでしょう」


 地下水路のことと言い、何代前かの国王は、相当用心深かったのだな。


 しゃがめば、通れる通り道を進んで行く。


「ははは。やはり、この抜け穴を使ったか」


 城壁を抜けると、目の前にグレムが立っていた。


「久しぶりだな」


「十二時間ぶりぐらいかの」


 グレムは、思い出すように右斜め上を見ながら答えた。


「王国軍は、どうなった?」


 確か、千人の軍勢が向かっていたと、昨夜別れ際に言っていた。


「ばっちり、撃退しておるぞ!」


 グレムは、グッドサインをする。


「まぁ、ここにいるってことは、撃退しているか」


 睡眠不足がきているようだ。なに、当たり前のことを聞いているんだ。


 昨日起きたのが昼過ぎだから、二十四時間以上経っているのか、寝てないのに自覚したら睡魔が襲って来た。


 大きく欠伸をしてしまう。


「ははは。さすがに眠そうだな。だが、これから眠気が覚めることが起きるぞ」


 眠気が覚めること?


「おい、眠気が覚めることってなんだよ」


 トッポが、前のめりになって聞く。


「そろじゃな。そろそろ始まる頃じゃ。ついてこい」


 グレムが、歩き始める。


 俺達は顔を合わせて、お互いに頷く。


「行ってみるか」


 俺達は、グレムの後について行った。




「ここは、城壁の上だな」


 グレムが、どこに行くか気になっていたが、城壁の石階段を上り、城壁の上で止まった。


「グレム、なんでここに来たんだ?」


「まぁ、よく見ておくんじゃな」


 グレムは、そう言うと笑みを浮かべる。


「あら、ロックも来たのね」


 女性の声が聞こえて、振り向くとロナの姿があった。


「ロナ無事だったのか」


 地下牢を出てから、所在がわかっていなかった。無事な姿を見られて、安心した。


「当たり前でしょ。今から、歴史が塗り替える出来事が起こるのに、死んでられないでしょ」


「歴史が塗り替わる?」


「まぁ、見ていなさい」


「開門―!」


 城壁の下から、男の声が響き渡った。


「開門って、今城門の前にいるのは」


「大勢の国民じゃ」


 下を覗くと、多くの国民が、城門を抜けて、城の敷地内に押し寄せる。


 バーン! バーン!


「なに!?」


 コトミは、びっくりしたように耳を塞いだ。


「ドラの音か」


 騒ぎを鎮めて、民衆の注目を向けるために、使われるものだ。


 民衆が静まり返ると、半壊した城の二階から、白髪の初老男性が現れた。


「あれは、セパーヌか」


 よく見てみると、その初老男性はセパーヌだった。なんで、あんな所にいるのだ?


「サクラ王国で、上級貴族の一人であるセパーヌだ」


 セパーヌは、城壁にいる俺等にも聞こえるぐらいの声を出して、話し始めた。


 民衆は、ざわめきだした。なにを言っているか聞こえないが、いろいろ憶測が飛んでいるのだと思う。


「先日の騒ぎで、大きく王都を混乱させてしまったことに、この場を借りて謝罪する。城門を開けたのは、その謝罪と重要な知らせが一つあるからだ」


「重要な知らせ?」


「なんだろー?」


「なんか、あったか?」


 トッポとフーミンで、大事な知らせは何かを推測し始める。


「ははは。話を最後まで聞いてみろ、重要な知らせが何かわかるはずじゃ」


 俺は、セパーヌの方を見る。


「こっからは、私ではなく、もう一人のお方に話してもらう」


 セパーヌは、そう言うと後ろに下がり、入れ替わりで、もう一人の男性が現れた。

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