城内へ
「ロック」
宿舎から城に向かっている途中、トッポに話しかけられた。
「なんだ?」
「お前達が地下牢を出た後、ロナから城の内部を教えてくれた。城は、全部で三階建てじゃ。王がいる王座の間は、三階にある。そこまでに行くには、一階、二階を突破するのじゃ」
「わかった」
「それと、最終的には、この城は焼き払うつもりじゃ。そのため、逃げ遅れた用の脱出口を教えておく」
グレムは、そう言うと、半分に折られている紙を一枚渡す。
「これは?」
紙を広げてみると、細い路地みたいのが、たくさん書かれていた。
「これは、この城の地下にある地下水路じゃ。昔の国王が、何かあった時のためにと、人が通れるぐらいの大きさに水路を拡張させたと聞いているぞ」
「ありがとう」
奴隷を立ち上がらせ、緊急用の脱出口まで教えてくれた、救われているばっかりだな。
「ははは。礼を言うのは、反乱を成功させてからじゃ。それに主も救いたいやつが、おるんじゃろ?」
グレムは、俺に笑みを浮かべる。
「……」
「素直じゃないやつめ」
なんか、心を見透かされている感じがして嫌だ。
「なんだ!? さっきの雄叫びは?」
目の前に、兵士が数十人現れる。
「さて、本番が来たの」
「俺達の自由を手に入れるぞ」
「手に入れるんだ。自由を」
「突撃じゃ!」
「おおおおおお!」
奴隷達は、王国の兵士に襲い掛かった。
「なんだ!? こいつらは!」
その言葉を最後に、兵士は奴隷の波にのまれていく。
兵士達は、数十人で、こっちは約三百人だ。いくら熟練の兵士でも数の暴力では敵わない。
「やつらの武器と防具は剥ぎ取って使え!」
「はい!」
奴隷達は従順に、兵士の装備を剥ぎ取っていく。
悪党に染まっていく過程を見ている感じだ。
「電撃戦じゃ。王都の兵が全員集まったら、さすがに勝てないぞ。一刻でも早く、この城を占領するのじゃ」
「おおおおおお!」
勢いのまま、城内に突撃をする。
「そこまでだ!」
城内に入ると、大広間になっていた。その中心で百人程度の兵士が待ち構えている。
「城内は、混乱しているかと思ったが、冷静な部隊がいるの」
「グレム気をつけろ。こいつら、戦い慣れしている」
「わかっておる」
突然の奴隷による反乱。そんな、緊急事態で、冷静に守備位置を確保し、待ち構えることができるのは場数を踏んでいる証拠だ。
「我は、城の守備を命に預かっている、守備隊長の一人アグマだ!」
人一人分あるであろう大剣を片手で持つ男が叫ぶ。無精髭に、全身筋肉質な男。明らかに力自慢って感じだ。
「そこを通して、くれないかの」
「断る!」
「そんな断言せんでも、いいのじゃないか?」
「ここに来た時点で、お前等の反乱は国王の耳に届くだろう。王による警戒令が出されれば、近い時間に、王都で包囲網が作られる。外に逃げても逃げられないぞ!」
「そんな」
「俺達は終わりだ」
奴隷達の士気が低下していく。
「お前等が降伏すれば、この反乱は終わりだ!」
「ほう、わしらが降伏すれば終わるのだな?」
グレムは、口角をあげて言う。
「何を笑っている! 負け惜しみか!」
「アグマと言ったな。先入観は、捨てといた方がよいぞ」
グレムは、そう言った瞬間、守備隊に矢が降り注いだ。
「矢だと!? こいつらには、矢の武器なんか持っていたはずはない……!」
「グレム様! お待たせいたしました! 武装した月と黒猫の構成員百人到着しました!」
俺達が入った入口から、見たことがある白シャツと黒ズボンの服を着た男達が現れた。
黒のカバンを片手に持った男性が近づく。
「遅かったじゃないか」
「城門を突破しただけでも、褒めてくださいよ。王都の各地で、仲間が暴れて兵士の戦力を分散させています」
「さすがじゃ。これで、兵の集結は妨害できるな」
グレムは、嬉しそうに言う。
「それと、ボスからの伝言です。『城内及び、城周辺の指揮権をグレムに譲る。酒も解禁してよいぞ』ということです」
男性は、そう言うと、カバンから一升瓶を取り出して、グレムに渡す。
「ははは。なかなか、わかっているじゃないか」
グレムは、大声で笑うと酒を飲む。
「うし、いっちょ派手に暴れようかの」
グレムは、矢の攻撃を受け混乱している守備隊に目を向ける。
「皆の者。突撃じゃ!」
「おおおおおお!」
奴隷と月と黒猫の団員は、守備隊に対して突撃をした。
「うろたえるな! 盾を構えて、防壁を築け!」
「ダメです。混乱していて、間に合いません!」
「くっ。剣を抜け、迎え討つぞ!」
グレム率いる反乱軍と守備隊が混戦状態に入る。
「ロック。すごい乱戦だぞ」
「この乱戦を利用して、先に進むか」
一人一人相手していると時間がかかる。一直線に戦場を抜けて、先に進むか。
「その考えに賛成だけど、二階に続く階段にあいつがいるよー」
フーミンが、指さす方向には、階段の前に守備隊長のアグマが立っていた。
「そこをどけい!」
「自由を勝ち取る!」
反乱軍の何人かが、アグマに向かって突撃を仕掛ける。
「通させるかぁ!」
アグマは、そんな敵に対して、成人男性の身長ほど長さがある大剣を振り払う。
「うわぁ!?」
「ぐあぁ!?」
攻撃を仕掛けた反乱軍の兵士は、吹き飛ばされて、俺の後方へ飛んで行った。
「今なら」
反乱軍の一人が、アグマの後ろを通り抜けて、二階に上がろうとする。
「どこに行くんだ?」
アグマは、後ろに手を回すと小さな手斧を取り出し、二階に上がろうとした反乱軍の一人に向かって投げた。
「があ!?」
その手斧は、男の背中に突き刺ささった。男は小さな悲鳴と共に、階段から転がり落ちて動かなくなる。
「あの、おっさん死角がないぞ。ロックどうする?」
「倒すか、足止めするしかないな」
「僕が行こうかなー」
フーミンが、剣を構える。
「俺も行くぜ」
トッポも剣を構える。
「三人でやるか」
俺も剣を構えようとしたら、二人に止められた。
「ロックは、先に行きなよー」
「なにを言って」
「奴隷の子、助けたいんだろ?」
トッポとフーミンは、笑みを浮かべる。
「だけど、あいつは強い」
「大丈夫だよー。倒すのは難しいかもしれないけど、時間を稼いで、逃げるくらいならできるよ」
フーミンは、笑顔で言う。
「安心しろ、ここで死ぬつもりはないさ」
トッポは、俺の背中を叩く。
「トッポー。行くよー」
「おう」
フーミンとトッポは、アグマに向かって走る。
「今度は二人か」
アグマは、大剣を大きく構える。
「あの二人を援護しろ!」
「なに!?」
アグマに向かって矢が飛んでくる。
アグマは、大剣を盾にして矢を防いだ。
「あいつら」
振り向くと、月と黒猫の構成員が弓を使って、アグマに攻撃を仕掛けていた。
フーミンが、アグマに一太刀を浴びせる。
トッポも続いて、攻撃を加える。
大剣は、攻撃力が高いが、懐まで入られると扱いづらい。アグマは、攻撃を防ぐので、精一杯なようだ。
「ロック。早く行け!」
トッポが、俺にまで聞こえるような大声で言う。
「わかった!」
俺は、剣を携えながら走って、トッポとフーミンの横を通り過ぎようとする。
「通させるか!」
アグマは、俺の狙いがわかったのか、俺に攻撃を仕掛けようとする。
「僕たちのこと、忘れちゃダメだよー」
フーミンが、アグマに攻撃をして、それを妨害した。
「っち!」
アグマは、舌打ちして、フーミンの攻撃に応戦する。
「トッポ、フーミン。頼んだぞ」
トッポ達の横を通り過ぎる時、俺は、そう言って通り過ぎた。
赤いカーペットが敷かれた。階段を駆け上がっていく。
「よし、ここが二階だ」
二階に上がると、明かりが少なく、薄暗く感じた。
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