地下牢から出ると

「なんで、ロナさんがここに?」


 セパーヌは、驚いた表情で聞いた。


「私は、仲介者です。いろんな貴族を介して、ここに運ばれたことを知りました」


 月と黒猫の構成員、五千人による情報網もすごいが、仲介者であるロナによる情報網が一番すごいかもしれない。


「これは、手錠の鍵です」


 俺達の目の前に、鍵が投げられる。


「知り合いとは言え、俺達は犯罪者だ。助けるようなことをしていいのか?」


 この現場をネフムス国王が見ていたら、ただではすまないぞ。


「この国に住んどいてあれですが、私は王に対して呆れています。知っていますか? 今の王は、国のほとんどを大臣に任せて、自分は何もしていないことを」


 ロナは、グレムとセパーヌにも、手錠の鍵を投げた。


 セパーヌが、手錠の鍵を取り。ロナの方向を向く。


「たまに、貴族同士でも、ネフムス国王の治世について話すことがあります。噂にすぎませんが。王は、贅沢と女に溺れて、権力を私利私欲のために行使していると」


「その噂は、本当です。オークションでも、その一端が見えたと思います」


 確かに、オークションでは、欲しい物には、高額な金を使い、手に入れ高笑いをしていた。一国の王がやる振る舞いではない気がする。


「ははは! 国の平和を保つために存在していた仲介者が、国を裏切ろうとしているわい。これほど、おかしいと思ったことはないぞ」


 グレムは、手錠を外すと、腹を抱えるようにして笑った。


「私と父が、守って来たのは国ではありません。この国に住む、国民です。その国民が、将来的に苦しむのをわかっていて、見てみぬふりはできません」


「ロナさんが言っていることもわかります。我々貴族が存在できているのも、その基盤となる物を生産してくれている国民のおかげです」


 俺は、セパーヌとロナの会話を聞きながら、手錠を外す。


「ロナが辿り着いたってことは、ここがどこなのかわかるのか?」


 ロナは、俺の問いかけを聞いて、頷いた。


「ここは、国王ネフムスが住む城の地下牢です」


「やはり、城の地下牢でしたか。てことは、地下牢を出ると王都の中心ですね」


 セパーヌは、立ち上がり背伸びをする。


「この地下には、あなた達以外にも、国王の暴走を止めようとして、拘束された国の臣下達がいます」


「そいつらも、地下牢から解放させるのか」


「はい。地下牢に捕まっている者は、王に見放された者です。私とセパーヌが話せば、協力してくれるでしょう。外のことは、あなた達三人とグレムに任せます」


「僕達―?」


 フーミンが、首を傾げる。


「この地下牢を上がって、真っ直ぐ進むと、この城で奴隷として働いている人達がいます。その数は、三百人」


「そんなにいるのか!?」


 トッポは、驚いたような口調で言った。


 ネフムス国王、コトミ以外にも、そんなに奴隷を買い集めていたのか。


「ロナさん。それは、本当ですか? 城に常駐している奴隷は五十人ほどと聞いています。てことは、残りの二百五十人は、ネフムス国王の『奴隷コレクション』ですか?」


 セパーヌは、顎に手を当てて考える。


「はい。セパーヌさんの考えは正しい。二百五十人は、国王の趣味で買い集めた奴隷です」


「奴隷と言っても人だぞ。同じ人間を、コレクション呼ばわりって。どんな神経をしている。俺には、理解できない。理解もしたくねぇ」


 トッポは、吐き捨てるかのようにして言った。


 俺もトッポと同じ気持ちだ。人を人だと思っていない国王。おそらくサクラ王国に住む国民も人として見てないだろう。一度、殴らないと気が済まない気持ちだ。


「その奴隷達は、劣悪な環境下で過ごしています。彼らの戦意を高めることができれば、この城を占領できる程の戦力になるはずです。城は、外からの攻撃には強いですが、内側からの攻撃には弱い。三百人もいれば、十分な戦力です」


 ロナは、これから俺達がすることを淡々と話す。


 その劣悪な環境に、コトミがいるかもしれない。


 俺は、話を聞いているうちに焦燥感にかられて来た。早くコトミを助けたい。


「ロナさんは、私達を助けるだけではなく。国を倒す、クーデターも起こすつもりですか」


 セパーヌは、驚いたような顔をした。


「『さいは投げられた』のです。私が、ここに来た時点で、もう後戻りはできません。国を倒すのではなく、更生させます。セパーヌは、この地下牢にいる王に仕えていた臣下をまとめてもらいます。グレムは、ロック達と共に、解放された奴隷の指揮をお願いします」


「ははは! 面白くなってきたな。この地下牢には、わしの手下も数十人いるはずじゃ。そいつらを使って、外にいる月と黒猫の構成員と連携もとっていいかの?」


「好きにしてください。グレムのやりやすい方法で構いません」


 ロナは、そう言うと、俺達が入っている牢屋を開ける。


「よし。今夜は祭りじゃぞ。一世一代の大仕事じゃ。気合い入れるぞ」


 グレムは、牢屋から出ると腕回しをする。


「グレムは、俺達と来るのか?」


「後から、追いかけるぞ。まずは、わしの手下を解放してくる」


「わかった。俺達は先に、奴隷達がいる場所に向かおう」


 俺とトッポ、フーミンは、奴隷の解放だな。そこに、コトミもいるかもしれない。


「全く、とんでもないことになりましたな。王に見放されたと思ったら、次は王を打倒するクーデターに参加することになった。人生何が起きるかわかりません」


 セパーヌは、そう言いながら牢屋を出る。


「セパーヌは、クーデターに参加することになっても、大丈夫だったのか?」


「大丈夫です。私は、王からも見放されて、落ちた身。ロナさんが言った方針に従います」


 セパーヌは、ロナが言った通り、地下牢に閉じ込められている臣下を解放し、まとめることにするそうだ。


「そろそろ、俺達は奴隷がいる所に向かうとしよう」


 奴隷を助けて、コトミも助ける。


「よし、もうひと暴れしてくるか」


「僕達、歴史に名を残すかもねー」


 トッポとフーミンは、やる気十分みたいだ。


「出口は、そこの道を通って、真っ直ぐです。兵士達には、賄賂を渡して、出払ってもらっているので、大丈夫です」


「わかった。いろいろ手助けしてくれてありがとう。助かる」


 俺達は、ロナが教えてくれた道を通り、地下牢から出た。




「本当に、城の下に地下牢があったんだねー」


 地下牢を出ると、背後に国王が住む城が、そびえたっていた。


「でかいな」


 目の前にしてみると、城の大きさに驚く。一体、どれだけの石を積み上げて作ったんだ。


「早く、奴隷を解放しようぜ」


 トッポは、奴隷の宿舎がある方向へ歩き出す。


「そうだな。奴隷の解放は、時間勝負だ。ばれる前に、解放するぞ」


 俺達は、急いで奴隷がいる宿舎に向かった。




「ここか?」


 しばらく、進むと城の敷地内にある一角で、複数人の兵士が巡回している建物を見つけた。


 あの中に三百人の奴隷が、その中には、コトミもいるのかもしれない。


「建物の外に、十人ぐらいいるぞ」


「厳重に守られているねー。でも、守っているというよりは、見張っている感じだねー」


 フーミンの言う通り、巡回している兵は外を警戒しているより、建物を警戒しているように見えた。


「どうやって中に入る?」


 トッポが俺の方向を向いて、聞いてくる。


「ははは。悩んでいるみたいじゃの」


 トッポと話していると、グレムが話しかけて来た。


「追いついて来たのか、てか声が大きいぞ」


「おっと、それはすまない。それで、あの警備を突破する話だったな?」


 グレムは、すんなりと俺達の話の輪に入り込んでくる。


「グレムなら、どうやって、あの警備を突破する?」


「そうじゃの。主らは、見つからないことに気を取られ過ぎじゃな」


「どういうことだ?」


「見つかる前に、倒せばいい」


 グレムが、そう言うと後ろに鎧と剣を持った、サクラ王国の兵士が現れる。


「て……!?」


 叫ぼうとした、トッポの口をグレムは覆う。


「わしの手下じゃ。ここに来る途中、兵士が通ってきたので、着ていた鎧と武器をいただいたのじゃ」


 グレムの手下達は不敵な笑みを浮かべる。さすが、グレムの手下達だ。笑う顔まで、そっくりだな。


「さぁ。お前等、悪党の戦い方を、この新米に見せてこい」


「へい」


 兵士に偽装したグレムの部下は、自然な動きで巡回している兵士達の前に現れる。


「おい、止まれ! まだ、交代の時間じゃないぞ!」


 巡回している兵士の一人は、警戒した様子でグレムの部下に話しかける。


「国王様からの命令です。『城内で、一人の奴隷を捕まえた。今、巡回している兵士全員連れてこい』って言われました」


 辺りが静かな分、会話がここまで聞こえる。最後まで、見守ってみるか。


「な……脱走していたのか?」


 兵士達は、顔面蒼白となる。国王のコレクションだから、一人でも逃げたら大事なんだろうな。


「どうした?」


 騒ぎを聞きつけたのか、他の巡回していた兵が集まり、十人全員が一カ所にまとまった。


「奴隷が脱走していたみたいだ……」


「な……に?」


 他の兵士も顔面蒼白となる。


「早く事情を説明しに行ったらいいぞ。俺達が代わりに、ここを巡回している」


「わ……わかった。感謝する」


 兵士達は、緊張した面持ちで、グレムの部下の横を通り過ぎた。


「なーんてな。それは、嘘だ」


「え?」


 兵士が振り返る間もなく、グレムの部下は、兵士を剣の鞘で殴打した。


 兵士は、力なく倒れて、動かなくなった。


「どうじゃ、わしの部下は?」


「悪党だな」


「グレムさん。気絶しているこいつら、どうします?」


「縄で、縛り上げて、奴隷達がいる建物に隠そうかの。わしとロック達で行って来るから、適当に兵士を隠して、他の兵士が近寄らないようにするのじゃ」


「りょうかいです」


 グレムの部下は、気絶した兵士を運び始める。


「主ら、ついてこい。奴隷を剣闘士にジョブチェンジさせるぞ。ははは」


 グレムは、笑いながら宿舎の扉を開けた。

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