地下牢にて

 捕まった俺達は、目隠しをされて、兵士に連行された。連行されている途中で、手に何かを付けられた感覚がする。


 思うように動かせない。手錠か?


「なんだここ?」


 次に目隠しをとられ、見えた景色は、石で舗装された、地下通路らしき廊下だった。手元を見てみると、コトミが付けられていたような手錠がされている。


「早く歩け!」


 兵士に背中を蹴られて、進むように言われる。


 ここは、どこだ?


 まるで、俺達の秘密基地に行く時、通る階段と作りが似ている。違う所は、等間隔に松明が立てられていて、明るさは確保されていることぐらいか。


「ここは、監獄か?」


 進んで行くと、左右に牢屋らしき部屋が見え始める。


「お前達は、ここに入っていろ!」


 兵士に蹴られて、牢屋の中に入れられる。


「トッポ、フーミン、後ろにいたのか」


「後ろにいたぞ」


「喋ろうとすると、蹴られそうだったから、話せなかったけどねー」


 兵士は、牢屋に施錠すると、その場を立ち去る。


「おい、どうするんだこれ?」


 トッポ達の手元を見てみると、同じような手錠がされていた。


「これ、頑丈だねー」


 フーミンは、何度か外そうと試みるが、外れる様子はなかった。


「ははは。それは、鋼鉄製の手錠じゃ。どんな怪力でも、壊せんぞ」


 聞いたことがある声が、向かいの牢屋から聞こえた。


「その声、グレムか?」


「久しぶりじゃの。わしも、捕まってしまったわい」


 グレムは、自分の両腕についた手錠を見せつける。


「ここが、どこかわかるか?」


「地下牢って、言った所じゃな」


「そうだろうな」


 グレムは、この場所のことを知らないみたいだ。


「それよりじゃ。ベンが内通者って本当か!?」


 グレムが、鉄の檻に顔を押し付けて聞いてくる。


「本当だ。この目で、見たから間違いない」


 グレムは、そう聞くと、目を丸くして、呆然とした表情をした。


「本当なのじゃな。十年以上も可愛がっていたあやつが、裏切り者か」


 グレムは、座り込んで、天井を眺める。


「裏切っている感じは、しなかったのか?」


「全くと言って言いほど、裏切っている感じはしなかったわい。わし以外にも、オークション会場に潜ませていた、構成員が全員捕縛された。それを疑問に思って、兵士に問いただしていたところ、ネフムス王に言われて初めて知ったわい」


「グレム……」


「わしも老いたな。こんな、簡単に騙されるようじゃ。先代ボスと言われる資格がないわい」


 グレムは、下をうつむいて、落ち込んでいる様子を見せる。


「おっさん。落ち込んでいる暇ないぞ」


 トッポが、グレムに向かって『おっさん』と呼んだ。


「な、おっさん!?」


 グレムは、驚いたような声を出す。


「そんな情けない姿を見せて、先代ボスとは呼べるかよ」


「小僧め、言わせておけば良い気になりおって、牢屋を出たら、覚えていろよ!」


 グレムは、再び檻に顔を押し付けて叫んだ。


「うるさいぞ!」


 声を聞きつけたのか、兵士がこちらに駆け付けて来る。


「ちょうどいい所に来たの。ここはどこじゃ?」


「口外禁止を言い渡されている。話すことはできない」


「王都内か?」


 グレムの言葉を兵士は無視する。


「城内か?」


 兵士の表情は変わらない。


「地下か?」


 それは、さっき俺等で確認しただろ。


「つまんないの」


 グレムは、諦めたような表情をした。


「今度、騒いだら鞭打ちだからな」


 兵士は、そう言うと、その場から離れた。


「ロック。ここは、どこだと思う?」


「兵士がいるってことは、王国が直接管理している場所だろうな」


 そう考えると、王都内である可能性は高いな。


 郊外で、王国が管理している所は、ほとんどない。近くに鉱山はあるが、あそこは距離がかなりある。体感の移動時間を考えると、そんな遠い場所ではないだろう。


「グレムよ。私がいるのを、忘れていないか?」


 グレムが入っている檻の隣を見る。そこには、オークションで競りの勝負をしていた、セパーヌの姿があった。


「ははは。お主もいたな」


「上級貴族である。私が、このような目にあうとは」


 セパーヌは、悔しそうな表情を見せた。


「グレムは、檻に入れられるのはわかる」


「おい」


 グレムが、ツッコミを入れてきたが無視をする。


「なんで、セパーヌが、ここにいるんだ?」


「確か、君はグレムの近くにいた参加者だね。なら、知っているだろう、私が国王様になんて言ったのかを」


 俺は、その言葉を聞いて、オークションでの会話を振り返る。


『誰だか、わからないが、貴族の遊びをわかってないな』


 あ、多分このセリフだ。


「ふっ。その顔、思い出したみたいだな。そう、私は、王族に向かって『貴族の遊びをわかってないな』と言ってしまったのだ。国王様は、相当根に持ったみたいだな。グレムと一緒に私まで拘束されてしまったよ」


「そんなことが、起きていたのか」


「上級貴族である私が、手錠を付けられる日が来るとはね」


 セパーヌは、何やら悟ったような言葉を出している。


「諦めるのか? このまま牢屋に入れられる人生を送るのか?」


「おそらく近いうちに、我が一族は上級貴族の称号を剥奪されるだろう。そうなれば、私はただの一般庶民だ」


「人生、諦めたら、そこで終わるぞ」


「なら、どうすればいい? 国王様は、躊躇なく私を拘束したことを考えると、根に持ちやすい性格だろう」


「随分、老いましたね。セパーヌさん」


 俺とセパーヌが話していると、女性の声が奥から聞こえた。


「誰だ!?」


「私ですよ。覚えてないですか?」


 声が近づいて行き、松明の光で姿が現れた。


「ロナか?」


「ロナさん?」


 暗闇の中から現れたのは、ロナだった。

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