「ここの部屋にあるのー?」


 俺は、建物内の東側にある部屋の一つに入った。


「いや、目的の部屋は、さらに奥だ」


「なんで、ここに入った?」


 俺は、部屋内にある椅子を取り出し、天井にある排気口の蓋についている部品を取って、蓋を取り出した。


「天井内を移動して目的の部屋に行く」


「なるほどな。だが、その蓋についている部品は、部屋の中にいないと外せないぞ」


「さっき、落札された物が運び込まれる部屋に入って、部品を外している。手で押せば、取り外せるようにしているから、大丈夫だ」


「さすがー」


 俺は、排気口の中に入る。さすが、排気口だな。空気が汚れている。


 口元を布で、覆った方がいいかもしれない。


 覆面用に持ってきていた、大きな黒い布で口元を覆った。


「中は安全だ。空気が悪いから、マスクを付けて入って来い」


「わかった」


 トッポ達も、口元を黒い布で覆ってから、排気口に入ってくる。


「俺の後についてこい」


 俺が先頭になり目的の部屋に向かう。


「ここが、そうだ」


 目的の場所にたどり着いた。


「確かに、今まで出品された物が、ここに置かれているな」


「あれ、さっきの女の子じゃないー?」


 フーミンが指さす方向には、出品された品物に紛れて、縄で拘束されているコトミの姿がいた。


「人が入ってくる気配は、感じないな」


「ロック。この排気口の蓋は外れるんだよな?」


「あぁ、外れる」


 トッポは、それを聞くと排気口の蓋を、落とさないように、しっかり握りながら取り外す。


「よし、降りるぞ」


 俺達は、できる限り、音が立たないように降りた。


「おい、大丈夫か?」


 コトミの所に行き、肩を叩く。手には手錠がされている。顔は、下をずっと見ていて、表情が分からない。


「……」


 コトミは、無言のまま俺の方向を向く。


「ロック!?」


「しー」


 静かにするよう、コトミにジェスチャーで伝える。


 コトミは、状況を理解し、首を縦に振る。


「ロック。始祖の枝が入れられたケースあったよー」


 フーミンが、始祖の枝が入っているというケースを見つけ出して持ってくる。


 茶色いケースに取っ手が黒色。オークションで落札した時に、始祖の枝が入れられたケースに間違いない。


「わかった。手錠を外して脱出するぞ」


 手錠は、特殊な構造をしているのか、簡単に外れそうじゃなかった。


「手錠は、後回しでいいよ」


「すまない。動きづらいと思うが、我慢してくれ」


 俺の言葉に、コトミは頷いた。


「よし、脱出するぞ」


 俺は、部屋の窓をゆっくり開けて、周囲を確認する。


「よし、周囲に見張りは、いなそうだな」


 俺を先頭に建物の外へ降りて行く。


「コトミ。俺達が受け止めるから、大丈夫だ」


「わ、わかった」


 コトミは、そう言うと窓から飛び降りる。俺達三人で受け止めた。


「よし、できるだけ早く、この建物から離れよう」


「ロック。ありがとう」


 コトミは俺の方向を見て言った。


「気にするな」


「私、出られると聞いて浮かれていた。少し考えれば、おかしいってわかったはずなのに」


「そんな自分を責めるな。反省は、安全圏まで逃げきれてからだ」


「うん、わかった」


 俺達は、この建物から離れるため、真っ直ぐ月と黒猫の拠点へと向かう。始祖の枝は、手に入れ次第、拠点まで持っていき、グレムに渡す予定だ。グレムも、とっくにオークション会場から、離れているだろう。


 夜が深まっているせいか、人の姿は全くと言っていいほど見当たらない。


「人の気配ないねー」


「俺達には、都合が良い。このまま月と黒猫の拠点まで行くぞ」


 誰も歩いてない夜の街を駆け抜けて行く。


 しばらく、進んで行くと、月と黒猫の拠点が見えて来た。


「建物の前に、誰もいない?」


 月と黒猫の拠点前にいつもいた、見張りの構成員が、一人もいなかった。


「グレムのお迎えに行っているんじゃなーい?」


「それは、あり得るな」


 俺達の到着が早すぎたのか。先に拠点の中に入って、待っていよう。


「静かすぎる」


 拠点の中に入ってみたが、あまりの静かさで、違和感を覚えた。拠点の中にも、巡回する構成員がいたはずだ。


「皆さ……ん! お帰りなさい」


 そんな疑問を思っていると、奥からベンが現れた。黒のズボンに、長袖のワイシャツにベストといういつもの服装に着替えている。もちろん、いつも指で回している杖も持っていた。


「ベン。先に帰っていたのか」


 疑い過ぎていたか。大きな仕事で、力み過ぎていたかもしれない。


「はい、グレムさんに言われて先に帰っていました。ロックが、この拠点に帰って来ているということは、『始祖の枝』が……ん! 手に入ったということですね」


「あぁ、ちゃんと、この中にあるぞ」


 俺は、始祖の枝が入っていたケースをベンに渡した。


「確かに、始祖の枝を受け取りました」


 ベンは、ケースを持ったまま、お礼を言った。


「中は、確認しなくていいのかよ?」


 トッポが、疑問に思ったのかベンに聞く。


「はい、大丈夫です。中には、何も入ってないので」


「え?」


 疑問に思った瞬間、俺の目の前に、何かが振り下ろされていた。


「ぐっ!?」


 俺はとっさに両手で、それを受け止めた。あまりの衝撃で、俺が入って来た出入り口まで、吹き飛ばされた。


「ロック!」


 トッポの声が聞こえる。


「ベン、何しているんだよ!」


 トッポが、ベンに向かって叫ぶ。


「ロック。大丈夫!?」


 コトミが、俺のとこに駆け寄る。


「腕がしびれるが、大丈夫だ」


 骨も折れていない。とっさに腕でふさがなかったら、気絶していたかもしれないな。


「私は……ん! 月と黒猫の構成員では、ありません」


「どういうことだ?」


 ベンは、不敵な笑みを浮かべる。


「私は、王直属の暗部部隊、『夜桜』の副隊長です」


「暗部部隊? 聞いたことないぞ」


「それは、そうでしょう、ずっと……ん! 存在が伏せられていた組織なのですから」


「ここにいた月と黒猫の構成員は、どうした?」


「人の心配をしている状況ですか? まぁ、いいでしょう。ここの拠点にいた者達は、今頃牢屋の中にいるでしょう。私が、全員倒して……ん! 仲間に連行させたのですから」


 だから、こんなに静まり返っているのか。


「トッポ。フーミン。ここから、逃げるぞ」


「わかった」


 俺は、コトミの手を引っ張り、トッポとフーミンと共に、外へ出た。


「そこを動くな!」


 外に出ると。大勢の兵士が待ち構えていた。


「くっ!」


「大人しく捕まり……ん! なさい」


「ぐあ!?」


 立ち止まった瞬間。ベンの攻撃を背中からくらった。


「ロック!」


「はい、動かない!」


 顔をあげると、ベンの一声で、トッポとフーミンは、動きが止まっていた。


「離してー!」


 ベンは、コトミの首を掴んだ。そして、持っている杖の棒を引き抜きコトミの首に刃を向ける。


「動くと、彼女の首は……ん! 宙を舞いますよ?」


「女性を人質にとるなんて汚いぞ」


 トッポは、ベンに向かって言った。


「盗みをしている。あなた達に言われたくありませんね」


 フーミンは、持っている武器を地面に捨てた。


「ロック、トッポ。ここは、大人しく捕まろ」


 フーミンの表情は、真剣だった。


「おい、フーミン何言って」


「トッポ。フーミンの言う通りだ。人質を取られて、俺達は身動きがとれない。グレムが捕まった今、外部からの応援も期待できない」


 全ての状況が最悪だった。


「くそ!」


 トッポも、持っている武器を捨てる。


「俺も、降伏だ」


 俺は、そう言って武器を地面に置く。


「なかなか……ん! 物分かりがよくて、助かりますよ。皆さん、この三人を拘束しなさい」


 兵士達が、俺達のとこに駆け寄り、縄で拘束を始めた。


「ロック。みんな、ごめん」


 コトミは、涙を流しながら謝る。


 俺達は、盗みを始めて三年間で、初めて捕まった。

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