王ネフムス

「値段は、千万クスから、スタート。そして、今回に限り、上乗せ金額は指一本で、百万クスだー!」


「指一本で、百万クス!?」


「さすが、『始祖の枝』だ!」


 会場内が、大きくざわめく。


「では、千万クスからスタートだ!」


「二十二番の方、指一本! 千百万クス!」


「三十二番の方、指がなんと二本!? 千三百万クスだ!」


「わしも、参加するかの。一本、二本と来たら次は、これじゃ」


「二十番の方なんと!? 指三本だー! 三百万クス上乗せ! 千六百万クスだー!」


「おおおお!」


 会場内が、ざわめく。


「ははは。皆に、驚くような眼で見られるの、快感じゃの!」


 グレムは、嬉しそうな顔で言う。


「お次は、一番の方……グーだ! グーを出している! 二倍上乗せだー!」


「グーじゃと!?」


 グレムは、口を大きく開けて驚いた。


「一気にハードルを上げて来たな」


「オークションの遊び方を知らんのか」


「きっと、成金上がりの貴族よ」


 会場内の参加者達も、困惑した様な声をだしている。


「あー……。三千二百万クスです! お次の方は、いらっしゃいますか!?」


 司会者は、おかしくなった会場の雰囲気を感じ取ったのか、オークションを進行させる。


「三番の方! 指一本! 三千三百万クス!」


「くらいつく人がいるぞ!」


「あれは、上級貴族の一人。セパーヌさんよ!」


 セパーヌ? 確か、前にパーティーでロナに話しかけていた上級貴族か。


「誰だか、わからないが、貴族の遊びをわかってないな」


 俺は、一番の番号札を付けた人物を見る。


 目を覆える仮面をしていて、どんな人物かわからない。だけど、成金の貴族とは違う雰囲気を感じた。


「二十番の方、指一本! 三千四百万クス!」


「ははは。浮足だってしまったが、勝負はこれからじゃ!」


「三番の方、指を二本! 三千六百万クス!」


「貴族の遊びと、ギャンブルを間違えてないか? マフィアの先代ボスさん?」


「なぬー! 調子に乗るなよ、上級貴族風情がー!」


「二十番の方、指二本! 三千八百万クス!」


「めんどくさいどえー」


 会場内の空気ががらりと変わった。


「一番の方、お、親指を立てているー!?」


 司会者の言葉にオークションの参加者は、みんな、その方向に顔を向けた。


「き、金額はいくらにするつもりですか?」


「一億」


「はい?」


 司会者も会場内のみんな静まり返った。


「一億クス、払うと言ったんだえー」


「一億だと!?」


「破産する気か?」


 グレムとセパーヌは、驚きの声をあげた。


「ほ、本当に一億でいいのですか?」


 司会者は、あまりの金額に困惑したのか、改めて聞き直した。


「男に、二言いや、王に二言は、ないどえー」


「王?」


「今、王って言ったか?」


 一番の番号札を付けた人物が、そう言うと顔を覆っていたマスクを外す。


「わらは、サクラ王国、第三十五代国王。ネフムスであるぞえー」


「本物の国王だ」


「滅多に外出しないから、私初めて見たわ」


「俺も初めてだ」


 オークションの参加者たちは驚きの声をあげる。


「おい、王族が来るのは、聞いていたが、現国王か来ているとは聞いてないぞ」


 グレムは、驚いたような声を出した。


「グレム。やはり、知らなかったのか」


「ロック。その口調、お前知っていたのか? ちゃんと、わしにも言ってくれ」


「悪い。言うの、すっかり忘れていた」


「おい、国王だとよ」


「初めて見たー」


 ロックとフーミンは、驚きながら国王を見ている。


「国王様、一億クスです! 他には、いませんか!?」


 会場内は、静まり返っていた。


「やはり、王族だと分が悪いな」


「私も、手を引こうと思います」


 グレムとセパーヌは、手をあげるのを諦めた。


「国王様、始祖の枝落札です!」


「ロック、王がオークションに来ているのを知っている、知ってないは、どうでもいい。始祖の枝を盗むことに専念してくれ」


「わかった」


 グレムが、落札できなかったら、作戦開始の合図だ。


「トッポ、フーミン行くぞ」


「おう」


 俺は、トッポ達とオークション会場を出ようとした。


「では、『始祖の枝』は、国王様落札されました。オークションは、これで終わりじゃありません。次は、なんと聖書に書かれていた伝説の存在が出品されます!」


 司会者が、オークションの続きを進行し始める。


「聖書だと?」


「聖書に書いてあるのは、創造された物語じゃないのか?」


 オークションの参加者たちは、互いに聖書の内容について確認しあっている。


「では、登場してもらいましょう。聖書には、『神は、忠実な一族に目印として金色の髪を与え』と記されている存在」


 俺は、その言葉を聞いて、ごく最近その言葉を聞いたことを思い出す。そう、確かそれは見世物小屋でだ。


「エルフの末裔が、出品されます!」


 俺は、慌てて振り返ると、今日解放されたはずのコトミの姿があった。


「おい、ロックどうした?」


 トッポが、俺に話しかけるが、返事をする余裕がなかった。


「綺麗な金髪だねー」


 フーミンは、俺が見ている先を見て、感想を言った。


 見世物小屋なのに、長く滞在していたのは、疑問に思っていた。もしかして、オークションに出品するために滞在していたのか?


「金額は、なんと五千万クス! 年齢、美しさ、そして聖書に書かれている記録的価値をふまえて、この値段からにさせてもらいます!」


 オークションの参加者は、驚いているのだろう。しかし、俺は驚きのあまり、参加者達が話している内容について、頭に入らなかった。


 五千万クス、この金額も、コトミの入っていた檻に書かれていた値段と一緒だ。


 司会者の言葉を聞いて、見世物小屋の管理人が、コトミを最初から、出品するためにサクラ王国に来ていたのだと確信した。


「コトミ」


 三日前に見た笑顔は、消えていた。目には光が宿っていない。


 解放されると思ったら、オークションに売り飛ばされたのだ。絶望しているのは、容易に想像がつく。


「一億出すぞえー」


 やっと、聞こえたのは、サクラ王国の国王、ネフムスだった。


「一億出ました! 他にはいませんか!?」


 あいつが、買ったのか?


「他に誰もいません。落札です!」


「やったぞえー。わらの奴隷コレクションが、また増えた。ふっ、ひひひ」


 王は、笑った顔を手で覆いながら言った。


 こいつ、奴隷を物としか見ていないな。一発殴らないと気が済まない。俺は、王に向かって進もうとした。


「ロック。なにをしておる? わしとの契約内容を忘れては、おるまいな?」


 グレムが、俺の肩に手を置く。


「あぁ、忘れてない」


 盗む物が一つ増えただけだ。


 おそらく、コトミもあの部屋に連れていかれる。その時に、助ければいい。俺は、煮えくり立ってきた怒りを抑えて、解決法を考えた。


「なら、いいのだ」


 グレムは、そう言うと肩から、手を離した。


「トッポ、フーミン行くぞ」


 俺は、そう言うと会場から出て行く。


「ロック何があった?」


「ねぇ、あの子と知り合いなのー?」


 トッポとフーミンは、訪ねて来る。


「知り合いに近い」


 トッポとフーミン、ヘイホーの三人以外で、初めて仲良くなれた人だ。


 だが、知り合って日が浅いのに、なんでこんなに怒りの感情が出て来るのだろうか。


「ロック、もしかして夜中いなかったのって……」


 トッポは、何かを言おうとしたが、言葉を止める。


「いや、今は依頼に集中しよう。だが、これが終わったら、全部話せよ」


「わかった。ありがとう」


 トッポは、俺のことを真っ直ぐ見て言った。


「僕にも、話してねー」


 フーミンは、いつも通りの口調で俺に話しかけた。


「悪い。これが、終わったら全部話す」


「約束だ」


「約束だよー」


 俺と、足並みを合わせてくれるトッポとフーミンに感謝しかなかった。

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