ロックの妙策
清掃員の服に着替えた俺は、掃除をしながら様子を見る。
「おーい! そこの君!」
オークション関係者だと思われる男に話しかけられた。
「どうしましたか?」
「ここの部屋を、人生で一番綺麗な部屋に掃除しろ」
「ここの部屋ですか?」
確かに、内装は豪華だが、ここの部屋が、そんなに重要なのか。もしかして、ここが保管場所?
「そうだ、ここの部屋には、なんと、この国の国王様が来るからな!」
思考が停止した。国王が来るのか、この部屋に?
『王族がオーディションに来るのじゃ』
前に、グレムが言っていた会話を思い出す。
王族が来るとは言っていたが、国王が来るなんて聞いてないぞ。
「王様は、前にも来たことがあるのですか?」
「来ているかもなー。王族が、ちょくちょく出入りしていたのは、聞いたことがある。俺も役職が上がってから、初めて知ったなー」
こんな、喋っていいのかこいつ。相当、自分の役職が上がって嬉しいんだろうな。
「俺、この国の出身なのに、王様に会ったことがないんですよねー」
「俺も会ったことがないが、今の王様あんまり良い評判聞かないらしいぞ」
「え!? そうなんですか!?」
いろいろ喋ってくれそうだから、大げさなリアクションをしてみる。
「どうも、奴隷好きな王様らしくてな。気になった奴隷がいれば買って、飽きたら捨てているらしい。前の王様は、そんなんじゃ、なかったんだけどな。なんなら、民からの評判は、すごく良かった。偉大な王の息子は、賢人になるか愚人の二択と聞くが、後者になっちゃったな」
男は、神妙な顔つきで言った。グレムが、秘密基地から出る時に、難しい顔つきしていたのは、この話が原因かもな。
グレムは内心、『今の王族は腐敗している』とでも言いたかったのだろうか。いろんな推測が、頭の中をよぎった。
「他にも、黒い噂はあるのですか?」
「王位争いとか、すさまじかったらしいぞ。なにせ、王になるため、自分の腹違いにあたる弟を追放したぐらいだからな。しかも、身ぐるみはいで追放したらしいから、どっかで飢え死にしたかもな」
なかなか、やってくることがえぐいな。そこまでして、王になりたいものなのか。
「てか、お前は話してないで手を動かせ!」
いや、聞くとあんたがずっと話していたんだろ。
心の中でツッコミを入れながら、掃除を始める。
「じゃ、後は頼んだぞー。俺は、オークションの準備がある」
男は、そう言うと部屋を出て行った。
しばらく、無言で掃除をする。
「戻ってくる気配がないな。この部屋、重要なやつがあるかもしれない」
国王が来る部屋だ。もしかしたら、重要な物を置いているかもしれない。
しかし、探し回っても見つからなかった。
「さすがに置いている訳ないか」
文句が言われない程度に掃除をしておく。
「そろそろ、終わったかー」
掃除が終わったタイミングで、男が戻って来た。
「今、終わりました」
「そうか」
男は、そう言うと辺りを見渡して、掃除されているかチェックする。
「よし、いいだろう。次の場所だ」
いいのか、適当に掃除しただけだぞ。
「次は、どこを掃除するんですか?」
「次は、オークションで落札された出品物の保管場所だ。ここも綺麗にしとけよ」
今回の目的の場所が来た。
俺は、内心喜びつつ、男について行った。
「本日は、皆さん、お待たせ致しました。オークションの開始でございます!」
オークション会場に戻ると、司会がオークションの開始をお知らせしていた。
「ロック。遅かったな」
俺に気づいたトッポが話しかけてきた。
「あぁ、清掃員に変装していたら、面倒くさいやつに捕まってな」
あの後、掃除が終わる度に現れて、いろんなとこを掃除させられた。おまけには、同じ部屋を掃除させようとするポンコツぶりだ。おかげで、『やべ、オークションが始まる。じゃあ、あとはよろしく!』って、いなくなった。俺は、その後にすぐ抜け出して、ここに来たのだ。
「ははは。大体は、目星を付けたかの?」
グレムが俺の横に立ち話しかけて来た。
「まぁ、なんとか。後は、出品物が落札されて、俺が細工した部屋に運ばれるのを待つだけです」
「さすがじゃな。それにしても、お前達、ベンを見なかったか?」
ベン? あの途中で力むやつのことか?
「いや、見ていないな」
「そうか、あやつめ、どこに行ったんじゃ」
グレムは、腕を組んで、ため息交じりに言った。
「では、最初の品と行きましょう! かつて存在していたと言われるドワーフ! 彼らは。非常に精巧な細工をできることで有名でした。そんな、ドワーフが作ったと言われている指輪が、こちらになります!」
司会者の隣に黒い台の上に置かれた指輪がある。非常に小さいためか、司会者の後ろには巨大な指輪の絵が描かれていた。
「おー!」
オークションの参加者が、拍手をした。
「では、最初は百万クスからいきましょう!」
オークションが始まると、何人かが手をあげる。
「五十六番の方、指を一本立てていますので、百十万クスです!」
「グレム」
「どうした?」
「あの指の意味を教えてくれ」
「そうじゃの。指一本あげると、十万クス上乗せ、二本は二十万クス上乗せ、三本、四本、五本も同じ感じじゃ」
「他には?」
「他は、手をグーにした状態で上にあげると、二倍上乗せって意味だ。後これは、滅多に使うやつはいないが、親指だけ立てるのは、自分の好きな値を付けられる。滅多にないがな。このオークションは、娯楽の一つじゃ。こうやって、少しずつ競って行くのが、楽しみ方なのじゃよ」
「なるほどな」
貴族の遊びは、いまいちわからない。ほしいなら、大金をつぎ込めばいいのではと思うが、それだとつまらないのだろう。
「百九十万クスまで上がりました。他にいませんか!?」
グレムの説明を受けている内に、最初のオークションは佳境に向かっていたようだ。
「四十六番の方が、四本指です! 二百三十万クスにあげました! 他にはいませんか!?」
手を挙げている参加者は見当たらない。
「落札です!」
司会者が、そう言う。落札が決まったようだ。
パーティーの参加者は、みんな拍手をする。
「ははは。主らも拍手をせい。オークションで競り勝った人には、拍手して祝うのが、マナーじゃよ」
俺達も拍手する。
その後も、順調にオークションが進む。
「皆さん。お待たせしました。次は本日の目玉となっております」
オークションのスタッフが、慎重な動きで、取っ手が黒く、著色のケースを持って来た。
「これを見に来た人も、いるかもしれません!」
司会者の横にある台の上に、著色のケースを置く。
「このサクラ王国は、建国の際に老人から一本の枝を受け取ったと言われている」
「ついに来たか」
「待っていたぞ」
オークションの参加者達は、ざわめき始めた。
「何と、国宝に値する物が、このオークションに登場だ! 本日の目玉の品、『始祖の枝』!」
「おおおお!」
今日一番、参加者達が大きな拍手をする。
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