決着

「じいちゃん! 何言っているんだよ!」


「落ち着け、わしを信用するのだ」


「……わかった。酒を飲みながら見ないと落ち着かないぜ。おい、酒をよこせ」


 グレムの孫は、近くにいた月と黒猫の構成員に酒瓶を受け取り、飲み始めた。


「それ、ずるいぞ。わしにも、飲ませろ」


「じいちゃん禁酒中だろ。ばあちゃんに言うぞ」


「妻に、それだけは言わんでくれー」


 グレムは、自分の孫に土下座をした。


 酒好きな一族なんだな。なんとなくだが、孫の将来も見えた気がする。


「ほっ、ほっ。なによそ見をしているのだ?」


 イビルがいた方向から、背筋が凍るような声が聞こえた。


「……っ!」


 後ほんの一瞬判断が遅れていたら、喉が切り裂かれていた。


「ロック!」


 俺の危機を感じたのか、トッポはすぐさま、イビルに向かって攻撃を仕掛ける。


「ほっ、ほっ。素人当然の動きですな」


 イビルは、トッポの攻撃を弾き返した。


「相手は、戦闘の訓練を受けていない、素人の三人。実に、弱い敵よ。ほっ、ほっ」


「二人で、やるぞ」


「わかった」


 次は、俺とトッポの二人体制で襲い掛かる。


「やはり、動きが拙いな。私の番にさせていきますぞ」


「くっ!」


 なんて、ナイフ裁きだ。一本しか持っていないはずなのに、五本以上の突きが飛んでくるように見えるぞ。


 俺とトッポは、攻めから一転、守りの体勢に入るまで追い詰められた。


「俺のこと、忘れてなーい?」


 イビルの後ろから、フーミンは攻撃を仕掛ける。


「おっとと」


 イビルは、ぎりぎりの所で避けて、俺等と距離をとる。後ろに目でもついているのかよ。


「どうする。これだと、一向に決着が付かないぞ」


「相手は、体力温存しているねー。持久戦は、俺達が不利かもー」


「せめて、ナイフさえ、なんとかすれば」


 ナイフさえ? ナイフさえ、どうにかなれば、命の危険に繋がるほどの攻撃手段が、なくなるのではないか?


「トッポ、フーミン。俺に案がある」


「なんだ?」


「三人で、ナイフだけを狙うぞ」


「ナイフだけ?」


「あー、なるほどねー。なかなか、せこいことを考えるねー」


 フーミンは、俺が何をしようとしたか、わかったみたいだ。


「相手の体さばきに、翻弄されてきたのは、狙いが正確に決まってなかったからだ。なら、狙いを一つに絞る。武器を最初に標的として攻撃すれば、他の攻撃をくらっても、死ぬことはない」


「なるほどな。まずは、脅威から排除するってことだな」


 トッポも意味が分かったみたいだ。


「ほっ、ほっ。話し合いは、終わりましたか?」


 イビルは、指でナイフを回しながら言う。


「その余裕な態度を豹変させてやるぜ」


 トッポは、イビルにナイフを向ける。


「トッポ。フーミン準備はいいか?」


「いいよー」


「ドンっと来い」


「作戦開始だ!」


 俺達三人は、イビルに向かって、攻撃を開始した。


「何度やっても、同じこと!?」


 イビルは、俺達三人が自分のナイフに攻撃してきて驚く。


「俺達の間合いだ」


「油断したねー」


 イビルは、慌てて下がろうとする。しかし、交互に俺達が詰めて来るので、下がることが出来ないようだ。


「私の攻撃がナイフだけだと思うなよ!」


 イビルは、俺に向かって回し蹴りを入れて来る。


「ぐっ!?」


 なんて、強烈な蹴りだ。一瞬、意識が飛びかけた。


「なっ!?」


 俺は、胴体で、イビルの蹴りを受け止め、両腕でしっかりと掴んでいた。


「これで、下がることもできないな」


「離せ!」


 イビルは、抵抗する。絶対に離してたまるか!


「ロックばかり、見ていたらいけないぜ!」


 トッポは、そう言うとイビルが持っていたナイフを弾いて、地面に落とさせる。


「誰が、私を攻撃して良いと許可を出した!」


「フーミン行け!」


 フーミンが、ナイフを振り上げる。


「こんなところで、私が殺されてたまるか! くそ! くそ! くそぉぉぉぉぉ!」


 イビルの叫び声が、辺りに響き渡る。


「ヘイホーの仇だ」


 フーミンは、その叫び声を無視し、ナイフを振り下ろした。



「ははは。見事だったぞ」


 イビルとの戦闘を終えると、グレムは笑顔で拍手をした。


「イビルの私兵共! 武器を捨てろ! 主は死んだぞ!」


 グレムが、そう言うと、イビルの生き残っている私兵達は、武器を地面に捨てる。


「お前達。イビルの兵を拘束して、拠点に連れて行きなさい」


 ベンが、部下に指示を出し、イビルの兵を拘束させて、連行させて行った。


 グレムとベンがいる屋根の上には、二人の姿しか見えない。


「孫は、どうした?」


 グレムの隣で、酒を飲んでいたグレムの孫がいない。


「墓に行って、報告してくると行って、行ってしまったわ。早く知らせたかったんだろ」


「そうか」


 本当は、自分で仇を討ちたかったはずなのに、耐えていたんだな。


「皆さん、実に……ん! スタイリッシュでした」


 ベンも手を叩いて喜んでいる。


「通り魔の死体は、わしらが回収してもいいか?」


 俺達三人は、顔を合わせて、お互い頷いた。


「俺達の復讐は終わった。後は、好きにしてくれ」


「そう言ってくれると助かるわい。ほれ、回収しろ」


 月と黒猫の構成員は、イビルの死体を、どこかに持ち運んで行った。


「お前等は、帰って休んで来い。今日から二日後、また秘密基地に行く。じゃあの」


「おい、勝手に話を進め……」


 トッポが、グレムを止めようとするが、既に闇の中へ消えている。


「あっちは、まだやることが、あるみたいだねー」


「一回ヘイホーの墓に行こう」


「そうだな」


 俺達は、ヘイホーの墓がある所に向かい始める。


「ちょっと、待って!」


 ロナに呼び止められた。


「ロナ、どうした?」


 振り返ると、ロナが真っ直ぐこちらを見ている。


「あ、あの、お姉ちゃんの仇をとってくれてありがとう」


 ロナは、今にでも涙があふれだしそうだ。


「ロナのためではない。俺等も、大切な友達を殺されたんだ。礼は、言わなくてもいい」


「それでも、言わないと気が済まないわ」


「俺達は、帰るが気を付けて帰ってな」


「わかったわ」


 俺は、そう言うとヘイホーの墓に向かう。


「じゃあねー」


「じゃあな」


 トッポとフーミンも、別れの言葉を言って、俺の後に続く。


「本当にありがとう」


 小さな声だったが、後ろからロナの声で、そう聞こえた。

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