再び、コトミの元へ
「はぁー、大変だった」
後処理を終えた俺は、真っ暗な路地を歩いていた。手には、今回の宴会で残ったパンと干し肉を袋に入れている。それと、途中で井戸から汲んできた水を革袋に入れ、口を蓋して空いている手に持つ。
「お土産、気に入ってくれるといいな」
俺の目の前には、コトミがいる見世物小屋があった。
「誰もいないな」
見世物小屋の敷地内に誰もいないことを確認して、敷地内に足を踏み入れる。
「コトミいるかー?」
コトミが入っている檻の前に行き、声をかけた。
「また、来たの?」
ランタンで明かりを照らしてみると、体育座りしているコトミの姿がいた。
「今日。仲間と宴会をしてな。美味しかったから、コトミも食べると思って」
俺は、そう言ってパンと干し肉を袋から取り出した。
「パンと肉?」
コトミは、顔をあげて、俺の両手に持っているパンと干し肉を見る。
「あぁ、そうだ」
「ちょ、ちょうだい」
コトミが、それを言った後、お腹を鳴らす音が聞こえた。
「もしかして、お腹すいていたんか?」
「う、うるさい。早く、ちょうだいよ」
お腹を鳴らしたのが恥ずかしかったのか、コトミは自分の膝に顔を埋める。
「ちゃんと、ご飯食べている?」
「食べているわよ。ただ、私には量が足りないのよ。これ以上、恥ずかしいこと言わせないでよ。お願い、パンとお肉ちょうだい」
俺は、コトミの返事を聞くと、パンと干し肉を袋に戻して、袋ごとコトミのそばに投げた。
「ありがとう」
コトミは、そう言うと、袋からパンを取り出し、一口食べる。
「……!」
コトミは、一瞬、動きを止める。そして、次に動き出した時は、頬が膨れるまでパンを食べ始めた。
「美味いか?」
コトミは、頷いて食べ続けた。
言葉にして言うのは、失礼かもしれないが、冬眠に入る前のリスみたいで可愛い。
しばらく食べていると、コトミは胸を叩き始める。
「急いで、食べ過ぎだ。ほら、水も持ってきているぞ」
俺は、コトミに向けて言うと、水の入った容器を滑らせて、コトミに渡した。
コトミは、水を飲んでパンを流し込んだ。
「はぁ、死ぬかと思った。慌てて食べ過ぎも、良くないわね。でも、美味しかった」
コトミは、水を飲み終えると、幸せそうな顔をする。
「そんなに美味かったのか、パン?」
「奴隷だと、こんな小麦が入ったパンは食べられないよ。出たとしても、小麦に混ぜ物が多いパンね」
「そうなのか。このパンも他の穀物を混ぜているけど」
奴隷の食生活は、スラム街より厳しいものかもしれない。
「この干し肉も、食べていいの?」
「いいよ。食べてもらうために、パンと一緒に投げたし」
コトミは、俺の返事を聞くと干し肉を食べ始める。
「ねぇ、ねぇ。一つ聞きたいことあるけど、聞いて良い?」
「なんだ? 何聞きたい?」
「昨日は、偶然だとしても、今日はなんで来たの?」
「なんでって……コトミに会いたかったから」
「ぐふっ!?」
コトミは驚いたのか、干し肉を食べている途中で、むせ返ってしまう。
「大丈夫か?」
コトミは、再び水を勢いよく飲み始める。
「げほっ! げほっ! それ、真面目に言っている?」
「真面目だが? 何か、おかしいところあった?」
「なるほどね。平気で、そういうことを言えるタイプの人ね」
心なしか、コトミの頬は赤く見えた。
「今日は、もう帰って、少し落ち着きたい」
「今日『は』って明日も来ていいのか?」
「うるさい。揚げ足をとるようなことを言わないでよ」
コトミから、空になった水が入っていた容器が投げられた。
「わかった。んじゃ、また明日」
俺は、自分がいた痕跡を残さないように持ってきた物を持って、見世物小屋から出ようとする。
「ロック。ごちそうさま。パンとか持ってきてくれて、嬉しかった。ありがとう」
去り際に、コトミから、そう言われて思わず頬が緩む。喜んでくれた。
「あぁ、またな」
もしかしたら、俺の顔は笑顔になっていたかもしれない。それだけ、コトミに『嬉しい』って言われたことが嬉しかった。
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