第一章サイドストーリー
とある骨董屋で
目を開けると、青空が広がっていた。昨日、盗んだ杖を抱き着くように持っている。
「ん、寝ていたのか」
ベンチから起き上がる。そうか、昨日はスラム街まで逃げて、兵士の追跡を振り切ったんだったな。
王都に住む奴らは、スラム街を嫌っている。ここに住む者は、過去に何かしら暗い出来事があり、ここにしか入れられなくなった者達だからだ。それは、犯罪かもしれないし、借金漬けかもしれない。そして、スラム街まで逃げ込むと、兵士達でも諦めるほど、無法地帯化している場所でもある。
「みんな、逃げられたよな」
着ていたスーツは燃やしたし、マスクも一緒に燃やした。俺は、痕跡を完璧に消したから大丈夫だろう。
誰が見つかったかわからないが、ばらばらに逃げてしまった。みんな、どうしているかわからない。
「ロックは、無事だろうが、フーミンとヘイホーのことが心配だ」
なにかと、抜けているとこが多い二人だ。今までの盗みも無事だから、大丈夫だと思うが、目が届かない場所にいると不安になる。
「とりあえず、この杖は売ってしまおうか」
俺は、杖を布に包み、スラム街を出る。
確か、城下町の近くに骨董屋があったはず。
「あった」
しばらく、城下町を歩いていると、古びた骨董屋を見つけた。
耳が遠い爺が経営している骨董屋だが、ケチらないでちゃんと適正価格で取引してくれる。良心的な骨董屋は、数えるほどしかない。今まで何回も、他の骨董屋で格安で手に入れようとする商人と言い合いになったか。思いつくだけでもむかつく。
「爺いるかー?」
俺は、扉を開けて骨董屋の中に入った。
「ん、お前さんかい。また、マーケットで掘り出し物を見つけて来たのか?」
座敷の上であぐらをかいている爺がいた。髪は、俺に負けないぐらいのふさふさだが、それ以外は年相応で足腰が悪そうにしている。
「まあな」
爺には、盗みをして手に入れたなんて言ってはいない。あくまで、トレジャーハンターで、掘り出し物を探していると、爺には伝えている。
骨董屋の爺に、杖を渡す。
「どれどれ」
爺は、杖を眺めると、動きが止まった。
「爺どうした?」
「主が、手に入れて来たのか?」
「なにを言っている。俺しかいないだろ」
「ほっ、ほっ。そうじゃな」
ついに、ボケ始めたか、この爺。
「それで、爺。これは何か、わかったか?」
「もちろんじゃ。わしを誰だと思っている」
爺は、杖に掘られている紋章を指さす。
「これは、『フェイト・ステッキ』じゃな。サクラ王国で、建国百年記念に作られた木製の杖じゃ」
「よく、わかっているじゃねぇか。状態もいいだろう?」
「あぁ、申し分ない。だが、おそらく使用者が使っていて、杖の先が削れているから少しだけ安くなるの」
パーティーで、初老の男が杖をついていたのを思い出した。
「まじかー」
俺は、頭を抱えてしまった。あの初老男性、この杖が高値で取引されている貴重品だってわかっていなかっただろ。
「ほっ、ほっ。主は、純粋じゃな。態度が大きい時もあるが、ちゃんと認めるとこは認めておる」
「爺、うるさいぞ」
「これ、年寄りをいたわらんかい」
爺に杖で、頭を叩かれる。
「それで、どれくらいで買い取ってくれるんだ?」
俺の記憶が正しければ、買い取り価格は十万クスしたはずだ。
「そうじゃの。わしの知り合いに、この杖をほしがっている奴がいたの。いつも引き取らせてもらっているから、色をつけて『十五万クス』で、買い取ろう」
「爺、まじか!?」
思わず驚きの声が漏れてしまった。買い取り価格より、五万も高い。どうした爺、やっぱ、ボケ始めたか?
「金を持ってくるから、ちょっと待っておれ」
爺は、そう言うと店の奥に消えて行った。
「今日の打ち上げは、宴会だな。久々に酒と美味い料理を持っていこう」
グラタン。ピザ。ビール。ワイン。食欲があふれてきた。
「ほれ、金じゃ。十五万クス入っておるだろ?」
爺から、袋を受け取って中身の金を数える。
「確かに十五万クスだ」
「なに、その人を信じていないような眼差しは」
「本当にいいんだな?」
「わしの金銭感覚が、おかしいと言うのか? 歳をとっているかと言って、なめるんじゃないわい」
爺の目は、本気のようだ。それほど、この杖をほしがっている男に渡したいみたいだな。
「ありがとよ。また、良い物見つけたら持ってくるよ」
俺は、爺に背を向けて店の出口に向かった。
「主よ」
扉に手をかけたところで、爺に話しかけられる。
「なんだ、爺?」
「火遊びに気を付けるんじゃよ」
「ギャンブルには、使わねぇよ」
ギャンブルで、借金して蒸発した両親と同じ道は、歩むかよ。
俺は、店を出た。なんとなく、振り返って、外から骨董屋の中を見てみる。
「爺が杖を使っているじゃん」
爺が杖を使い、店の奥に行こうとしていた。
「あの後ろ姿。パーティーで、杖を使っていた初老の男と似ているな」
まさかな。貴族階級の男が、こんな所で、骨董屋なんか開いている訳ない。
「俺も疲れているかもしれないな。自分へのご褒美で、美味い飯でも食うか」
俺は、王都にあるレストラン街に向かって、足を進めた。
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