金髪の女性コトミ

「みんな、集まったな」


 噴水の場所に行くと、トッポ、ヘイホー、フーミンが待っていた。


「ロック。主催者見つけられたか?」


「あぁ、もちろんだ。フーミンとヘイホーは、目星付けたか?」


「もちろんー」


 フーミンの返事に、ヘイホーも小刻みに頷いた。


「この後、情報が正しければ、パフォーマーが舞台で、パフォーマンスをする。その時に、明かりを消して暗くするから、この時に盗みを始めるぞ。盗んだ者から、パーティー会場を脱出してくれ。見つかったら、今日は合流しない。わかったな?」


「わかった」


「りょうかーい」


 みんな、頷いた所で、辺りの明かりが消えて、舞台の上にしか明かりが残ってない状態になった。


「パフォーマンスが始まるぞ。みんな捕まるなよ」


「あぁ、ロックも捕まるな」


 俺達は、再び三手に別れた。


「レディース、アンド、ジェンドルメン! パーティーに参加者の皆さん。こんばんは」


 パフォーマーが、大きな声であいさつをする。パーティーの参加者は、拍手で返事を返している。


「すみません。折り入って、お話が」


 俺は、パーティーの主催者の隣に行き、話しかける。


「今は、私が手配したパフォーマーの技を見たい。後にしてくれ」


「決して、損はさせません」


 俺は、主催者の手に、さっき男から盗んだチップ代を手に握らせた。


「ふむ。羽振りが良さそうな商売らしいな」


「はい。パーティーの参加者が、パフォーマンスを注目しています。二人だけで話す、チャンスだと思い尋ねました。かなりの儲け話なので、あまり周囲の人たちに、聞かれたくない話です。場所を移しても大丈夫ですか?」


「わかった。話を聞こう」


 主催者は、俺の話に食いついた。


「では、こちらで」


 主催者をひとけのない所に呼ぶ。


「それで、話は、ぐっ!?」


 俺は、主催者の口と鼻を布で力強く覆う。


「安心しろ、薬屋から盗んだ、人を眠くさせる液体を染み込ませた布だ。眠るだけで、命には別条はない」


 俺が説明している間に、主催者は脱力して、力なく倒れる。


「宝石のついたネクタイピンと指輪。いただいていく」


 男から、アクセサリーを盗むとポケットにしまう。


「きゃあああ!? 泥棒よー!」


 パーティー会場の方から、女性の悲鳴が聞こえた。


「誰かが、ミスったな」


 この会場に王国の兵士達が来る。ここから、早く脱出をした方がいい。


「近い出口は、あそこだな」


 俺は、急いでパーティー会場から出る。


「そこの人、パーティー会場から悲鳴が聞こえたが、何かあったのか?」


 俺が振り返ると、視線の先には悲鳴を聞いて駆け付けたのか、三人の兵士がいた。


 兵士と出会うタイミングが悪すぎる。


「確かに、聞こえました。でも、私がちょうど出る時に悲鳴が聞こえたので、状況が分からないです」


 ここは、わかんないことにして、切り抜けるのが無難だ。


「そうなのか?」


「悲鳴が聞こえた会場から出て来たのは、あなただ。少し、話をしてくれるだけでも良い」


「良かったら、荷物検査も協力してくれたら助かる」


 兵士三人は、ゆっくりと俺に近づいて行く。


 ポケットには、さっき盗んだ主催者のアクセサリーがある。荷物検査されたら終わりだ。


「くっ!」


 俺は、兵士三人から背を向けるように走り始める。


「おい、逃げたぞ!」


「仮面の男を追いかけろ!」


 兵士達は、俺を捕まえるために追いかけて来た。


「大通りで逃げても、追跡されやすい。住宅街に逃げ込むか」


 サクラ王国の王が住む、この王都は人口が数十万人以上いると言われている。それだけの規模になると、住宅の密集地が生まれて、複雑な路地を形成する。


 俺は、その路地を利用して兵士の追跡を振り切ろうと考えた。


「住宅街の方向を逃げたぞ!」


 兵士達も、住宅街の中に入って行く。


「見失うな!」


 夜の住宅街に、男達の叫び声が響き渡る。


「さすがに、しぶといな」


 兵士の男達も土地勘があるようだ。なかなか、追跡を振り切ることができない。


「住宅街を出たぞ!」


 ここで巻けないなら、場所を変えるしかない。


「見世物小屋?」


 走っている途中に、街灯の柱に『見世物小屋へようこそ』という張り紙を見かけた。


 確か、見世物小屋は、珍しい生き物などを連れて世界中を旅しながら、訪れた人から入場料を取ってその珍しい生き物を見せる商売。珍しいだけあって、商売道具を傷つけたら数十年間雨情、賠償金を払い続ける生活をしなければならないと聞く。


「もう一枚あるな」


 俺は、走りながら街灯の柱に張り付いていた紙を剥がす。


「見世物小屋がある場所は、ここから近いな」


 さすがに兵士も、見世物小屋が開かれている敷地内には、入って来ないんじゃないか? 兵士達も賠償金が高いのも知っているはずだ。


「逃げ込んでみるか」


 ダメだったら、また逃げればいい。俺は、見世物小屋に向かって走った。



「ここが、見世物小屋」


 いくつもの檻が置かれている。規模が大きい見世物小屋のようだ。


「逃げたのは、こっちだ!」


 俺が走って来た方向から、兵士の声が聞こえた。


「早く、隠れられる場所を探さないと」


 隠れられる場所を探していると、大きな黒い布がかかっている箱を見つけた。


「この中なら隠れても、大丈夫そうだな」


 俺は、箱の中に入り隠れる。


「おい、いたか?」


「いない。見失った」


「てか、こんな所に見世物小屋なんてあったのか」


 俺を追って来た兵士達が、会話しているのが聞こえる。


 ピーッ! ピーッ!


 この笛の音は、警備兵が応援を求める合図の笛だ。


「あっちに逃げていたか!」


「間違いなく、俺達が追っている奴だ」


「急ぐぞ!」


 せわしない足音が、遠ざかっていく。


「あんた達が、追っているのは、ここに隠れていたけどな」


 おそらく、トッポかフーミン、ヘイホーの誰かが見つかったんだろ。あいつらも、スラム街で育った仲間だ。兵士に捕まるほど、弱くない。逃げ切れるだろう。


「さて、見世物小屋からも金目の物を盗って帰るか」


 俺は、見世物小屋を見て回る。


 見世物小屋を一通り見てみたが、金目の物は見つからなかった。


「さすがに、開園もしていないから、高級品なんてないか」


 見世物小屋にいるやつは、珍しすぎて盗んだら、すぐにばれてしまいそうだ。


「あ、あれは」


 諦めかけた時、机の上に熊のぬいぐるみを三つ見つけた。


「これは、ベアー君。確か、貴族の子供達の間で流行っているという」


 このぬいぐるみは、金になりそうだ。いただくとしよう。熊のぬいぐるみに手を伸ばしていく。


「ねぇ」


 人の声!?


 俺は、慌てて伸ばしていた手を引く。


「だ、誰だ!?」


 まさか、他にも人がいたとは、俺としたことが、すっかり油断していた。


「どこを探しているのよ。ここよ。ここ」


 女性の声が聞こえた方向を向く。


「この檻の中か?」


 その方向には、馬車みたいな乗り物に建てられた大きめな牢屋があった。


「そこのランタンを使って、明かりを照らしてみなさい」


 話している感じ、俺を通報するということはしない感じだ。このまま、言うことを聞こう。


 俺は、近くにあったランタンに掴み、ポケットからマッチを取り出して、ランタンに火を付けた。


「き、君は……」


 美しさで声を失うって言葉を聞くが、その経験を人生で初めてした。


「なに、ぼーっとしているのよ」


 彼女の姿は、美しく、綺麗な金色の髪をしていた。


「君は、外国から来た人なのか?」


「外国? まぁ、この国で生まれ育ってはいないわ」


「金色の髪なんて、初めて見た」


「そう、そんなに珍しいのかしら?」


 金髪の女性は、鎖に繋がれた手で自分の髪を触る。


「てか、私の髪より、そこのぬいぐるみ」


「ベアー君のこと?」


「そう、それよ。私に一体投げてくれない? 手についている鎖が短くて、檻まで届かない」


 金髪の女性は、手についてる鎖を、自分の頭上に上げて繋がれていることをアピールする。


「わかった。だけど、条件がある」


「条件?」


 金髪の女性は、首を傾げた。


「君の名前を教えてくれないか?」


「私の名前?」


「そうだ」


「コトミよ」


 俺は、彼女の名前を聞くとぬいぐるみを投げて渡した。


「ありがとう。うーんー。もっふもっふ、しているわ。こんなに可愛い、ぬいぐるみに抱きつけるなんて幸せ」


 コトミは、クマ君に頬をすり寄せて、嬉しそうな表情をする。


「君は、見世物小屋の一人なのか」


「うん」


 コトミの顔は、少し切なそうな表情をする。


 ランタンで、コトミが入れられている牢屋の周囲を見てみる。すると、牢屋の近くに小さな看板を見つけた。


『遠くの国に住む、金色の髪を持つ一族の女性。サクラ王国内では、お目にかかれない幻の一族。ぜひ、ご覧ください。五千万クスで買い取りも可能です』


「五千万クス!?」


 あまりの高額な値段に驚いてしまった。


「五千万クスって、そんなに高いの?」


「高い。こんな、金額があれば、土地買って、家も建てられるぞ」


「そんなに高いんだ」


 コトミは、複雑な表情をする。自分に値段つけられているんだ。複雑な気持ちになっても仕方ない。


「誰かいるのかー?」


 遠くから、男性の声が聞こえた。


「この声、見世物小屋の管理人よ」


「まじか」


「早く逃げて」


 コトミは、俺を急いで帰らそうとする。


「わ、わかった」


 俺は、ランタンの火を消して、見世物小屋から出ようとする。


「コトミ」


「なに?」


「俺の名前は、ロック。また、ここに来る」


「わざわざ、奴隷の私に会いに来るって言うなんて、変な人」


 暗くて、コトミの表情は見えないが、嫌な感じな声ではなかったと思う。


 見世物小屋を出て、スラム街へ向かう。


「女性に会いたいって思うの、初めてかもしれないな」


 女性で、次に会うのが楽しみだと思う。この不思議な気持ちは初めてだった。

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