第一章

仮面パーティー

 満月の月が、綺麗に見えた日の夜。外で仮面を被った男女が、グラスを片手に、パーティーをしていた。


「みんな、準備はいいか?」


「もちろんだ、ロック」


 仲間の一人であるトッポは、茶髪の髪を整えてセットする。


「スーツの準備も出来ているどん」


 もう一人の仲間であるヘイホーも、トッポの真似をして頭を整えている。しかし、ヘイホーの頭は、坊主のため大して変わらない。


 俺達は近くにある空き家に隠れて、パーティーの様子を偵察している。下級貴族のパーティーであるため、警備が厳重っていうわけでもない。潜入してもばれなそうだ。


「改めて、今日の目標を伝える。今日は、下級貴族のパーティーに潜入。貴族たちから、ばれないように、アクセサリーと金目の物を盗む」


「あぁ、了解だ」


 目標を確認すると、俺達四人はスーツに着替え仮面を付ける。


「いいか。下級貴族のパーティーだから、警備は厳重ではない。だが、警備がいるのに変わりはない。油断するな」


「わかったどん」


「おい、ヘイホー。そのなまった喋りは、止めろ。貴族階級の奴らで、なまりがある貴族はいない。それに、いつも出ている鼻水、拭っとけよ」


「トッポ、仕方ないよー。なまりなんて、そんなすぐに消えるわけ、ないしさー」


「おい、フーミン。本番前に、ふわふわした口調で話すな。気が狂う」


「えー、そんなカリカリしていると、頬に残っている斬りつけられた傷跡が開くよー」


「子供の時についた傷跡が開いてためるか」


 トッポの口調が強い。トッポ焦っているな。


「トッポ。仲間に当たるな。緊張しているのは、わかるが落ち着け。深呼吸だ」


「すまない、ロック。落ち着く」


 トッポは、そう言うと大きく深呼吸する。


「よし、ここからは気を引き締めろ。パーティー会場に入るぞ」


 俺達四人は、パーティー会場に足を踏み入れた。



「どうぞ、お楽しみくださいませ」


 白シャツを着た使用人だと思われる男から、シャンパンが入ったグラスを受け取る。どうやら、疑われていないみたいだ。


「ロック。第一関門は、突破だな」


「あぁ。ここまでは、計算通りだ」


 サクラ王国内では、スーツを着ている人は、貴族以外いない。貴族が、スーツを着る。このことは、一種のステータスでもあり、貴族である証でもあるのだ。


「使用人が、スーツを着ている人を疑えば、貴族の逆鱗に触れちゃうからねー。自分の生活を守るためなら、黙々と仕事するだけだよねー」


 フーミンは、ふわふわした口調で話す。


「フーミン。あまり、思っていることを口に出すな」


「トッポ。ごめんてー」


「会場内に入ったんだ。まずは、金目の物に目星を付けるぞ。盗みは、その後からだ」


「わかったど……です」


 ヘイホーは、途中で噛みながらも、自分の発言を直した。


「ヘイホー。自分で、口癖直そうとしたな。偉いぞ」


「ありがどん。あ……」


 ヘイホーは、喋らない方がいいかもしれない。


 俺は、ジェスチャーで、ヘイホーに喋らないように指示をする。ヘイホーは、小刻みに首を縦に振った。


「一度解散する。ヘイホーは、フーミンと行動しろ。トッポと俺は、それぞれ別行動。三手に別れて行動だ」


「わかった」


 トッポは、スーツを正して返事をする。


「今から、二十分後に、会場の真ん中にある噴水で集合だ。わかったな」


「りょうかーいー」


 フーミンは、眠そうな顔をしながら敬礼した。ヘイホーも、フーミンを見て敬礼をする。


「では、解散」


 俺達は、金目の物を探しに三手に別れた。


 確認のため、もう一度会場内を見渡そう。


「今回の主催者はどこだ?」


 基本、こういう貴族が集まるパーティーは、主催者の所に人が集まるものだ。人が、集まっている所を探してみるか。


「主催者を探しながら、食器とかも見てみるか」


 テーブルクロスの上に置いてある食器を眺めてみる。


「ガラス製のコップに、普通の皿。下級貴族だと、そんなに資金は裕福じゃないな」


 どれも、城下町で簡単に手に入る物だ。置いてある物に価値があるものはない。


「おっと、失礼」


「あぁ、悪い」


 仮面を付けている男にぶつかりそうなふりをして、男が着ていたスーツのポケットにある物を盗る。


「ハンカチに、煙草。あと、これは使用人に渡す、チップ代か」


 下級貴族のパーティーに参加する貴族も、そんなに裕福ではないみたいだ。


「やはり、狙うは主催者の身に付けているアクセサリーか」


 下級貴族と言っても、パーティーを開くほど、金の余裕もあり、ビジネスも上手くいっている証拠。ここにいる参加者は、そのビジネスに一枚食わせてもらえるか、新しいビジネスを提案しに来た所だろう。


「一見、優雅そうに見えても。中身は、金儲けのことだけしか考えていないやつらか」


 それにしても主催者が、どこにいるかわからないな。


「おっと、そこの若者失礼。通させてもらうよ」


 杖をついた初老だと思われる男が、俺の横を通り過ぎる。


「あぁ、すまない」


 俺は、男がついていた杖に、目が行く。


「あの杖……確か……」


「ロック。気づいたか」


 トッポが、俺の横に来る。


「サクラ王国が、建国百年の記念として、国内の一流職人に作らせた杖だ。名前は、『フェイト・ステッキ』、百本しか製造されてない貴重品だ」


 俺の知っている人の中で、トッポは、一番骨董品に詳しい。貴族の様々な私物が集まるパーティー会場、トッポがいれば、高級品の見落としが無くなる。連れて来て良かったと思える、心強い味方だ。


「運命の杖か。トッポは、あれを狙うのか?」


「もちろんだ。ロックは?」


「俺は、パーティーの主催者を狙っているのだが、見つからなくてな」


「パーティーの主催者なら、さっき、あそこにいたぞ」


 トッポは、俺が探していた所の反対を指す。


「あそこか、助かる」


 俺は、トッポに礼を言うと、パーティーの主催者がいる方向に向かった。


「今度、サクラ王国に来る新しい輸入品がですね……」


「ふむふむ」


「私も今度、製造所の方で、新しい商品を作らせている所でして……」


「なるほど、それはいいかもしれませんな」


 トッポが、教えてくれた場所に行くと、パーティーの主催者を見つけることで来た。


「案の定、ビジネスの話ばっかりだな」


 主催者は、赤の仮面を被っている男だな。


 狙い目は、スーツに付けている、宝石のついたネクタイピン。それと、指に付けている指輪か。


「明らかに、成金って感じだな」


 成金の方が、金遣い荒くて高級品とか、すぐ身に付ける。狙うには、ちょうど良い標的だ。


「そろそろ、集合時間だ。元の場所に戻るか」


 俺は、主催者の場所を把握した所で、トッポ達と集合場所として約束した場所である、噴水に向う。

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