Day26 故郷
「私にその、死の予感とやらは感じる?」
「いいや、感じない。遭は殺しても死ななそうな気もするが」
「それは良かった。私、まだ食べたいものがそれこそ死ぬほどあるの」
次は何を食べるかを思考するよりも会話を優先したのは、次に会話を止めれば黒鬼はもう二度と話し出さないのでは、という馬鹿げた、それでいて否定する根拠のない妄想のせいだった。この話をするために、目の前にいる首は生きてきたのではないかと。
遭の疑念をよそに、
「暴食は伊達ではないんだな。例えば?」
目尻を下げる黒鬼はどこまでも穏やかに見える。
「食べたいものは何でも食べてみたいけれど今はカレーが食べたいわ。半熟卵の載った、辛口のカレー。注文しないと。あなたは? 今この国で食べられないものってそうないわよ」
まさか夕食までここで食べるとは考えていなかった。何度目かのスマホで光る遭の顔は考えに反して楽しげだった。
「それは凄い」「信じてなさそうね。故郷の味でも用意出来るわよ、きっと」
いくつかの場所が話に出てきたことを思い出して遭が提案すれば、
「故郷はここだよ。ここにいる時間が一番長くなった」
黒鬼は何ともつまらない答えを返す。
「じゃあ、カレーでいいわね。きっとこの国独自よ。私が食べ終わってからになるけど」
私はいつかなんて言わない。有無を言わせぬ態度の遭に、黒鬼は何も言わず頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます