Day24 センタク
これは、僕がただ思うに任せて書く手紙、いや告白だ。石が峰当主としての遺言をしたためた後、思いつきでそのまま筆を動かしているだけの、どこにも出ることのないもの。それでも書いているのは書くことで自分の思いを整理したいからかもしれない。
僕が生まれた時、父も母もそれはそれは喜んでくれたらしい。
君は、僕が歪められていると言って譲らなかったね、黒鬼。金塊のため、幼い頃からそう育てられてきたのだと。
確かに僕は物心ついた時から君の話、正確には石が峰へ富をもたらす黒鬼がいる、と聞いて育ってきた。家督を継いだ際には挨拶に行かなければならない、機嫌を損ねることのないようにとね。
でも、それだけだ。僕の前の「真の当主」はもう何代も昔で、誰も君のことを知らない。身体がもうないことも。君を閉じ込めた、あの堅牢な屋敷には色々なまじないや仕掛けがあるらしいが、それらが全くの無意味なことも。金塊がいつどうやって石が峰にもたらされるのかも、わからなかったんだ。
僕は君に会えるのを心待ちにしていた。君が、生まれる前から僕を選んだのだと思っていた。けれどようやく会えた時に、気づいたんだよ。僕が君を選んできたのだと。でなきゃ、会ったその時に笑って欲しいなんて考えない。僕の選択は正しかった。君は笑うと本当に美しい。何度も描き直したけれど結局、その笑顔を残すことが出来なかったのは残念だ。
そう、実はここで告白するが、絵は完成していない。正確には納得するものは、だけれど。額縁は完成したからまた付き合ってもらうよ。次はあのティアラを載せて描こう。君のために誂えたものだし。君には黄金以外も似合うんだって伝えたいしね。
そろそろ磨った墨も尽きてきた。今日はここまでにしておこう。次に行く時には、あれだけ語ったのだからサイダーを持っていかないと。西洋では最後にこう書くとか。まぁこれはどこにも出ないけれど、いいだろう。
愛をこめて。
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