救いと黄金
朝本箍
Day1 むかしばなし
「戦国の頃でした」
朗々とした語り口が部屋へ響き渡る。声はまるで金属と硝子を接触させたような、何かが起こることを予感させる独特の色で、美声とは異なった意味で人の耳を奪うものだった。声は続ける。
「石が峰の先祖は竹藪で、矢傷に倒れる黒鬼を見つけました。黒鬼は今にも息絶えそうでしたが先祖が近寄ると、自分を助けるのならば尽きせぬ富を約束しよう、そう持ちかけてきました」
薄暗い部屋の中、他に誰もいないのか相槌はない。
「先祖は強欲だったのでその見返りに魅力を感じ、黒鬼の言うままに自分の腕を切り落として黒鬼へ食べさせました。黒鬼は喜び、約束通り、ひとりでは到底使い切れないほどの富を先祖へ与えました。これが石が峰の始まりです」
ここで初めて、もうひとつの声が響く。こちらは逆に特徴がないことが特徴のような、性別や年齢などの差を全て取り払い、平凡を突き詰めれば異質になることを体現した色をしている。
「わたしがその黒鬼だ。初めまして、石が峰
救世主の部分であからさまに顔をしかめ、遭は目の前に「置かれた」黒鬼を見下ろした。そう、黒鬼は白いテーブルクロスのかけられた食卓の上に、頭部だけの姿で存在していた。短い黒髪、褐色の肌、翡翠の瞳。顔立ちは南米を思わせる強いもので、それでいて性別を感じさせないという不気味さを持っている。
「……富をもたらすのは、あなたでしょう。にしても」
遭はそこで一旦言葉を切り、腕を組むような仕草をした。左腕がないため実際には右腕で身体を抱いているように見える。豊かな胸の上に腕を回し、ため息混じりに、
「ツッコミどころしかないんだけど、どこから指摘すればいいのかしら」
まずはそこのすり合わせから始めましょう、黒鬼。
若き新当主の心からの言葉に黒鬼はそうだね、唇の端を引き上げた。
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